■「とんでもない」プレーは無理でも

 この学校を話題にするのであれば、2001年の香港映画『少林サッカー(Shaolin Soccer)』との比較は避けて通れない。映画では、貧相な見た目の主人公たちが寄せ集めのチームを結成してサッカーの大会に参加し、下馬評を覆す快進撃をみせる。

 黄色い法衣風のユニホームをまとった主人公たちは、宙を舞い、驚異のダイビングボレーやオーバーヘッドキックを繰り出し、果てはシュートで竜巻を起こして、試合に40-0で勝利していた。

 プログラムに参加している12歳の少年は、「空を飛んだり、ああいうとんでもないことはできません」と前置きしながらも、「だけど、いつかは回転蹴りや背面蹴りはできるようになると思います。そうなれば良いサッカー選手になれますよね」と話した。

 プログラムが始まった1年前、無数の子供たちが集団演武を披露した式典で、河南省の担当者は「伝統武術というわが省の強みを生かせないかよく精査して、少年サッカーの発展につなげたい」と宣言し、文書でも「少林サッカーのブランド確立」を明言した。

 学校の目標は、5年以内に州で3本の指に入るユースチームを抱えることだ。プログラムに参加する子供たちは、一日に数時間はサッカーボールを追いかけ、学校側も英国の企業と契約してコーチを招へいすることを決めている。

■いずれは全国一に

 やがて、グループを二つに分けての紅白戦が始まった。主将が各選手のポジションを指示し、背番号10番をつけたFWの選手が、後方宙返りをしながらピッチに入る。

 武術の鍛錬は十分でも、子供たちのサッカーの技術はまだまだ発展途上で、それは学校関係者も認めている。守備の緩さ、シュート技術の低さ、足元の拙さは一目瞭然だ。

「ボールがあるときしか走っていないじゃないか!それでいいとでも思っているのか?相手をマークするべきだろう?」――ハーフタイムにソンコーチが声を張り上げると、子供たちは声をそろえて「はい!」と返事をする。

 長年のサッカー好きだというソンコーチも、サッカーと少林武術には「天と地ほどの」違いがあると認める。それでもコーチは言う。「我々は一番の武術学校を備えています。ですから別の分野でもこの国の一番になれますよ。自信はあります」

(c)AFP/Tom HANCOCK