【11月16日 AFP】(更新)美術界における数年来で最大の発見の一つとして大々的に発表された、ポスト印象派画家ビンセント・ファン・ゴッホ(Vincent van Gogh)の未発表スケッチとされる65点について、真贋(しんがん)をめぐる激しい論争が巻き起こっている。オランダ・アムステルダム(Amsterdam)のゴッホ美術館(Van Gogh Museum)は、スケッチを偽物としてはねつけている。

 ゴッホ美術館の専門家らは痛烈な声明の中で、「いわゆる失われたスケッチブック」の絵は模造されたもので、「ビンセント・ファン・ゴッホの作ではないと考えられる」と主張した。

 今回のゴッホ美術館による介入は、仏出版大手スイユ(Seuil)が仏パリ(Paris)での記者会見で、未発表スケッチを収めた画集を発表したことを受けて行われた。画集のタイトルは「Vincent Van Gogh, Le Brouillard d'Arles(ビンセント・ファン・ゴッホ、アルルの霧)」で、17日に全世界で出版される予定。

 この「失われた」スケッチが描かれたのは、オランダの画家ゴッホが仏南部の都市アルル(Arles)で暮らした時代とされる。ゴッホはこの時期、「アルルの寝室(Bedroom in Arles)」「夜のカフェ(Night Cafe)」「静物画:花瓶の12輪の向日葵(Still Life: Vase with Twelve Sunflowers)」などの代表作の一部を制作している。

 だが、今回の発見を支持する専門家らはAFPの取材に対し、ゴッホ美術館の主張は誤りであり、「ゴッホ美術館が間違いを犯したのは、これが初めてではなかった」と語った。

 スケッチは本物と主張して譲らない同画集の編集者のベルナール・コマン(Bernard Comment)氏は、ゴッホ美術館が以前にも間違いを犯したことがあり、偽物と断じた作品が後にゴッホの作と判明したことがあったと述べている。

■殿堂の守り手

 コマン氏はAFPの取材に、ゴッホ美術館は「自分たちが殿堂の守り手であり、それが必然の結論だ」ということを言いたいのだと思われるが、他の複数の専門家もスケッチは本物と確信していると語った。

 コマン氏によると、インク画のスケッチは、有名な酒場「カフェ・ド・ラ・ガール(Cafe de la Gare)」の会計帳簿に描かれていたという。この酒場には、ゴッホがその苦悩に満ちた生涯の終わり近く、1888年から1890年までの間に何度も滞在していた。帳簿は、カフェ・ド・ラ・ガールの書庫で発見されたとされている。

 スケッチには、仏画家ポール・ゴーギャン(Paul Gauguin)やカフェ・ド・ラ・ガールのオーナーなど、ゴッホの友人たちの肖像画も含まれているが、大半は、アルル周辺に広がるプロバンス地方の田園風景を描いたものだ。ゴッホはここで、1年に及ぶ滞在の間に精力的に絵画を制作した。

 だが、ゴッホ美術館は、問題のスケッチブックの信ぴょう性を覆す、非常に長くて詳細な声明の中で、スケッチ65点のうちの56点について、専門家らが高画質の写真を確認した結果、ゴッホ作のものは存在しないとの結論に達したと説明している。

■偽造品

「専門家らが様式、技法、図像学の観点からスケッチを調査した結果、この絵は顕著な地理的な誤りが含まれていること、退色したゴッホの素描を基に描かれていることなどの結論に達した」とゴッホ美術館は続けている。

 スケッチブックの信ぴょう性を覆すもう一つの手がかりは、スケッチが「茶色がかったインクで描かれており、この種のインクは1888~1890年の時代に描かれたゴッホのスケッチには一度も使われていない」ことだ。(c)AFP/Fiachra GIBBONS with Jo BIDDLE in The Hague