【11月10日 AFP】米大統領選で共和党候補のドナルド・トランプ(Donald Trump)氏が驚くべき勝利を収め、欧州連合(EU)離脱を選んだ英国民投票に続いて専門家の政治予測を覆す展開となる中、フランスでも来年の大統領選で極右政党、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン(Marine Le Pen)党首が番狂わせを実現するのではないかとの見方が真剣に論じられ始めている。

 仏大統領選は第1回投票と決選投票の2段階に分かれて行われるため、非主流派の候補が想定外の勝利をつかむのは困難だ。だが、ルペン党首はトランプ氏の勝利に歓喜し、来年の政権奪取に向けた幸先の良い兆しと見ている。

「昨夜起こったことは、この世の終わりではない。一つの世界が終わるだけだ。米国人は、支配階級が望んだ形式的な候補を選ばず、自ら大統領を選んだ」。ルペン氏は9日、党本部で開いた記者会見でこう語った。

 フランソワ・オランド(Francois Hollande)大統領の社会党政権が動揺を隠せないトランプ氏の勝利について、ルペン氏は「フランスにとって良いニュース」と歓迎。トランプ氏が欧州との自由貿易や「行き過ぎたグローバル化」、「われわれを苦しめている大規模な移民流入の原因である軍事介入」に反対していることを称賛した。

 一方、ルペン氏の父親でFN創設者のジャンマリ・ルペン(Jean-Marie Le Pen)前党首は、ツイッター(Twitter)に「きょうは米国、明日はフランスだ。ブラボー、米国!」と投稿した。

■「フランス人への教訓」

 フランスでは来年4月、次期大統領を決める投票が始まる。仏大統領は、米大統領より権限が大きく、議会の承認なしに軍隊を紛争地帯に派遣することも可能だ。

 直近の世論調査結果によれば、ルペン氏は第1回投票は通過するが、5月に行われる決選投票では保守派の候補に敗れるとみられている。保守派の大統領候補はアラン・ジュペ(Alain Juppe)元首相になるというのが大方の予想だ。

 しかし、フランス国内では左派、右派ともに、大番狂わせが生じる可能性に警鐘を鳴らしている。

「ブレグジット(Brexit、英国のEU離脱)と共に、理性の境界線は消失した。われわれフランス人にとっての最大の教訓は、ルペン氏も勝利する可能性があるということだ」。保守派のジャンピエール・ラファラン(Jean-Pierre Raffarin)元首相は仏ラジオ・テレビ・ルクセンブルク(RTL)にこのように述べ、ドミニク・ドビルパン(Dominique de Villepin)元首相もこの見解に同調した。

 産業の著しい空洞化、高い失業率、相次ぐ過激派の攻撃、移民の流入といった社会問題が重なるフランスでは、既存の政治に幻滅した多くの有権者の票が「フランス第一」を掲げるFNに向かっている。トランプ氏の「米国を再び偉大な国に」や、ブレグジットの「主権を取り戻せ」といったスローガンに呼応するように、ルペン氏は「国民国家の時代が再来した」と宣言している。(c)AFP/Clare BYRNE