【11月10日 AFP】米大統領選で共和党候補のドナルド・トランプ(Donald Trump)氏が当選すれば、国民は大挙して国外に逃げ出すだろう──。選挙戦中にはおおむねジョークとして受け止められていた予言だが、トランプ氏のまさかの勝利を受けて単なる空想とも片付けられない話になっている。カナダ移民省のウェブサイトに米国人からとみられるアクセスが殺到するなど、実際に脱出を探る人が続出しているからだ。これまでも一部の自治体が移住促進キャンペーンを打ってきたカナダ側では、新たに売り込みを図る動きも出ている。

 カナダ人はこれまで、お得意のひねりの利いたユーモアで米国人の「難民」流入を歓迎し、カナダに来れば、優れた医療制度や名物料理のプーティン(フライドポテトにチーズカードをのせ、グレービーソースをかけたもの)、メープルシロップ、さらには「眺めの良い方のナイアガラの滝」という特典を享受できると熱心にアピールしてきた。

 しかし8日遅くにかけてトランプ氏の勝利が確実になるにつれ、カナダ移民省のウェブサイトには移住方法を調べようとする人のアクセスが殺到。一時ダウンする騒ぎになった。

 この現象について、トランプ氏が勝利宣言を行った数時間後にAFPの取材に応じたオタワ(Ottawa)在住の移民問題専門の弁護士、ジュリー・タウブ(Julie Taub)氏は「感情的な反応にすぎないと思う。実際にカナダに移住する米国人が増えるかどうかは分からない」と指摘。その一方で、タウブ氏を含む移民専門の弁護士たちは、同日午前中に何人かの米国人から実際に問い合わせがあったことを認めている。

 この1年、カナダの不動産業者や過疎地域の自治体は、米国の大統領選を利用して顧客獲得や人口増加を当て込んだマーケティングキャンペーンを行ってきた。

 ツイッター(Twitter)には9日、「美しいヌナブット(Nunavut)準州に引っ越しませんか」と呼び掛け、北極圏(Arctic territory)の自然環境や「1年のうち10か月は冬」であることを売り込むメッセージが投稿された。

 東岸部のノバスコシア(Nova Scotia)半島先端の沖合に浮かぶケープブレトン島(Cape Breton Island)は「もしドナルド・トランプ氏が勝利すれば、ぜひケープブレトンへ」というスローガンの下、米国人に移住を促してきた。米国との国境から400キロ離れた同島は、雇用と安価な住宅の提供も約束している。

 トランプ氏の勝利を受けてカナダのソーシャルメディア上には、米国人を締め出すために米国との国境に壁を築こうとジョークを飛ばす投稿もあふれた。もちろんこれは、トランプ氏が米国とメキシコの間に壁を建設する案を公約に掲げてきたことをネタにしたものだ。

 モントリオール(Montreal)のデニス・コデール(Denis Coderre)市長は、トランプ氏が壁の建設費用はメキシコ側に負担させると主張していることを踏まえ、カナダと米国の壁についても費用の請求書はトランプ氏に送り付けると冗談めかして語っている。(c)AFP/Michel COMTE