【10月29日 AFP】欧州各地でポピュリスト政党や極右政党が台頭しているが、憎悪と国家主義がまん延した1930年代と同じ状況には陥っていない──欧州を代表する歴史家のイアン・カーショー(Ian Kershaw)氏がAFPのインタビューに応じ、右傾化が懸念される域内情勢について語った。

 ナチス・ドイツ(Nazi)の指導者アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)の伝記「ヒトラー」が国際的なベストセラーとなったカーショー氏は、現状をファシズムの台頭になぞらえるのは的外れだと主張する。実際には、一部の近隣諸国とは違って「自国の過去を明確に認識している、リベラルで平和的な」ドイツのおかげで、欧州は「野蛮な状態に陥る」ことに強く抵抗できていると語った。

 だが一方で、2014年以降はロシアが好戦的で独裁的な国に逆戻りしただけではなく「欧州のあらゆるレベルで民主主義が後退している」とカーショー氏は警告した。

 最近発表した第1次世界大戦(World War I)から冷戦勃発までを網羅した新著「To Hell and Back」については「いろいろな面で書いていて動揺する本だった」と打ち明け、「誰もがそうであるように、私も現状に不安を覚えている」と述べた。

 ただしカーショー氏は、英国の欧州連合(EU)離脱や、極右勢力の台頭、外国人嫌悪、人種差別などは憂慮すべきことだとしながらも「1930年代の暗黒時代に回帰しているとは思わない」と述べた。当時と現在の最大の違いは、今のドイツは裕福で、社会民主主義的価値の確固とした旗振り役であることだという。

 もう一つの違いは、欧州が「軍国主義から市民社会」へと大きく転換し、「民主主義の大陸」になったことだともカーショー氏は指摘した。

 欧州連合(EU)は現在も問題は抱えているものの、平和を維持しているとカーショー氏は評価する。「EUが築いた交渉による物事の進め方によって、我々は1930年代に欧州が経験した一種の圧力に抵抗しやすくなった」

 ドイツで尊敬を集めるカーショー氏は、昨今のポピュリズムについて「1930年代のものとは異なるが、通じる部分も当然ある。現在イスラム教徒や欧州に渡る移民に対して向けられている、部外者に対する嫌悪感がそうだ」と述べた。(c)AFP/Fiachra GIBBONS