■恐怖心をあおる言葉

 しかも、こういった含みのある語彙(ごい)を使っているのは、街頭でシュプレヒコールを上げる怒れるデモ隊だけではなくなってきている。人種差別的な意味合いを持つ単語が、一部の政治家の口からも聞かれ始めているのだ。

 その中には、ナチスが優生思想に基づき、より優秀とみなしたゲルマン民族を指すのに使われた言葉で「民族」を意味する「voelkisch」や、「劣等人種を排斥しゲルマン民族を繁栄させるべき」というファシズム思想を示す言葉の「umvolkung」なども含まれている。

 事実、右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を率い、論争を招くことを恐れないフラウケ・ペトリー(Frauke Petry)氏は先月、「voelkisch」という語の汚名を返上させ、負のニュアンスを払拭(ふっしょく)すべきだと提案している。

■アイデンティティーの変化

 米シンクタンク「ドイツ・マーシャル基金(German Marshall Fund)」の政治アナリスト、ハンス・クンナニ(Hans Kundnani)氏は、20年前なら、政治家がこういった物議を醸す単語を使うことはなかったと過去を振り返る。

 そして「これまでの約15年間に、ドイツのアイデンティティーに変化が生まれた。そういう経緯の中で、こうした言葉の使用も復活してきたのだと思う」と語った。

 この変化とは、第2次世界大戦(World War II)において「ドイツ人は犠牲者だったという集合的記憶の復活」がみられるという点だ。その結果「ドイツは一時に比べて、ナチスという過去に対する批判的な見方を若干弱めている」と同氏は説明した。

 クンナニ氏はまた、26年前のドイツ再統一が、その一翼を担っている可能性もあるとみている。「ドイツにおける言説の一部が、かつてなかったほど旧東ドイツ側の影響を受けている」からだ。このことについては、「東側は歴史経験も違えば、関わり方も違う──ナチスの過去との関りもより薄い」と分析している。(c)AFP/ Hui Min NEO