■古い血液サンプルから遺伝物質を抽出

 患者番号057のデュガさんは、過去3年間で関係を持った男性約750人のうち、72人の名前を挙げることができた。この数は調査対象となった患者の大半よりもはるかに多く、それが珍しくて印象に残る名前と相まって、後にデュガさんの悪評を生む一因となった可能性があると、マッケイ氏は推測する。

 1984年にCDCの調査に基づく科学的研究が発表されると、図表の中の「ペイシェント・ゼロ」に注目が集まった。この人物が、東海岸と西海岸でエイズを拡散させているウイルスの根源であることを示唆していた。

 2年後、ある野心的なジャーナリストがデュガさんの名前を嗅ぎつけ、エイズ危機を扱った自身の著書で社会に影響を与えた「そしてエイズは蔓延した(And the Band Played On)」の中に極悪人として登場させた。

 米国のHIV流行が不運なデュガさんから始まったのではないことは、専門家の間では以前から明白だったが、生物学的な証拠が不十分だった。

 この件に決着をつけるために、論文のもう一人の主執筆者である米アリゾナ大学(University of Arizona)のマイケル・ウォロビー(Michael Worobey)氏は、数十年前の血液サンプルに含まれるHIVウイルスから遺伝物質を回収するための新技術を開発した。

 研究チームは1978~1979年に米国人男性から採取した血液サンプル2000あまりからHIVのDNAを抽出、HIVが1970年代にすでに高い水準の遺伝的多様性を示していたことを突き止めた。これは、HIVがすでにある程度の期間、米国本土を循環していたことを意味する。

 さらに研究チームはHIVの起源をカリブ海地域と特定、ニューヨーク市経由で米国に持ち込まれたことを明らかにした。

 ウォロビー氏は声明で、「人々が警鐘を鳴らすきっかけとなり、エイズ発見につながったカリフォルニアでのHIV流行は、実際にはそれ以前にニューヨークで発生していた流行から派生したものにすぎなかった」と指摘した。(c)AFP/Marlowe HOOD