【10月28日 AFP】世界で最も美しく高価な服を着ているのに、皆一様に退屈そうな無表情──。ファッションモデルはなぜ、あんなに悲愴(ひそう)な顔つきをしているのだろうか?

「笑わない。とにかくそういうものなんだ」と語ったのは、仏パリ(Paris)のファッションウィークでキャットウオークに立った、ナイジェリア生まれで英ロンドン(London)在住のモデル、タイ・オグンコヤ(Ty Ogunkoya)さん(26)。トップモデルとして10年のキャリアを誇るオグンコヤさんだが、ショーで笑顔を見せたことは一度もないという。

 スロバキア人モデルのクララさん(18)も、「ランウェイを歩く時は何か悲しいことを考える」と話す。「飼い猫が死んだ時のこととかね。バスにはねられて」

 医学生でありながら新星モデルとして活躍中のマチュー・ビヨ(Matthieu Villot)さん(22)は、スマイル禁止という暗黙のルールが存在する理由は明確だと語る。「見せたいのは服であって、私たちの顔ではない。笑えば、服ではなく顔に注目が集まってしまう」

 しかしファッション史家のリディア・カミチス(Lydia Kamitsis)氏によると、モデルは昔から無表情だったわけではなく、笑顔を見せなくなったのはむしろごく最近で、1980年代初頭、日本人デザイナーの山本耀司(Yohji Yamamoto)や川久保玲(Rei Kawakubo)が頭角を現した頃からだという。

 当時はシンディ・クロフォード(Cindy Crawford)やエル・マクファーソン(Elle Macpherson)といった、強い個性を持ったスーパーモデルが活躍した時代で、その真逆を行こうとした動きだったと、カミチス氏はみている。

 服の新作コレクションがショー形式で発表されるようになった1960年代、モデルたちは、笑顔を見せるのはもちろん、声を出して笑ったり音楽に合わせて踊ったりしていたという。「今日のモデルは、歩くハンガー扱い」と指摘するカミチス氏。「とにかく彼らの個性を消し去るため…主役は服なのだから」と話した。