【10月18日 AFP】米カリフォルニア(California)州モハベ砂漠(Mojave Desert)の外れにあるアデラント(Adelanto)市。2年前、財政破綻にひんしていたこの街は失業率は2桁に上り、将来の展望は暗かった。

 市議のジョン・ウッダード・ジュニア(John Woodard Jr)氏(57)は「アデラントは他の市に吸収されようとしており、消滅しかかっていた」と明かす。「街は死にかけ、ただ悲観するのみだった」

 だが、かつて荒廃していたアデラントは、今や確実に息を吹き返した。カリフォルニア州有数の商用大麻の栽培地に名を連ねたのだ。同州では嗜好(しこう)用大麻の合法化の是非を問う住民投票が11月に予定されていることから、成功のにおいも漂う。

 カリフォルニア州では既に医療大麻の使用が認められている。さらに、住民投票を通じて大方の予測通りに完全合法化が実現すれば、全米最大の人口と世界最大規模の経済力を誇る同州は大麻ビジネスの新たな中心地へと生まれ変わり、巨額の財源増加が見込めそうだ。

 カリフォルニア州を拠点とする大麻ビジネス投資・調査会社、アークビュー・グループ(Arcview Group)によれば、住民投票後に大麻が完全合法化された場合、同州における医療・嗜好用大麻の売上高は、2020年までに現在の倍以上の65億ドル(約6700億円)に達する見通しだ。

 全米の合法大麻市場の規模は、2015年の約57億ドル(約5900億円)から2020年には230億ドル(約2兆3900億円)を超えると、アークビューは予測する。

 カリフォルニア州の他にも、アリゾナ(Arizona)州、メーン(Maine)州、マサチューセッツ(Massachusetts)州、ネバダ(Nevada)州などが11月8日に大統領選の投票とあわせて嗜好用マリフアナの合法化を問う住民投票を実施する。

 カリフォルニア州では2010年にも同様の投票が行われているが、このときは合法化には至らなかった。しかし、これ以後、合法化への支持は広がり、シリコンバレー(Silicon Valley)の富豪、ショーン・パーカー(Sean Parker)氏も賛成派の一人だ。南カリフォルニア大学ドーンサイフ校(USC Dornsife)と米紙ロサンゼルス・タイムズ(Los Angeles Times)が実施した最新の世論調査では、カリフォルニア州有権者の58%が支持を表明している。

■大麻栽培で一獲千金を

 昨年11月、アデラントはカリフォルニア州で医療用大麻の栽培を承認した最初の自治体となった。以来、資金力の豊富な投資家たちが人口3万2000人の同市に押し寄せ、大麻栽培のために割り当てられた「グリーンゾーン」と呼ばれる2か所の区画の土地や倉庫を買い占めていると、市関係者らは語る。

 不動産仲介業を営むウッダード氏によると、「ここまでベントレー(Bentley)で乗りつけて、物件を見に来る人が急に増えた」と言う。ウッダード氏は倉庫が点在する広大な一画を指さしながら「数年前なら、あの建物は72万5000ドル(約7500万円)で買えた。だが今の価格は400万ドル(約4億1000万円)だ」と語った。

 大麻の栽培免許を取得しようとアデラントに殺到する人たちの中には、ラッパーのスヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)氏や伝説のレゲエミュージシャン、故ボブ・マーリー(Bob Marley)の息子のキマーニ・マーリー(Ky-Mani Marley)氏、カルト的な人気のコメディーコンビ「チーチ&チョン(Cheech & Chong)」で知られる俳優のトミー・チョン (Tommy Chong)氏といった著名人もいるという。

 アデラント市関係者らは、大麻栽培が軌道に乗れば、年間の生産量は優に100トンに達すると見込む。これまでは大麻生産より市内の3つの刑務所の方が有名で、活気を失っていた同市に何より必要だった税収増が期待できる。

 スペイン語で「前進」を意味するアデラントは、これまでに35件の大麻栽培免許を交付。ウッダード氏の話では、交付件数は今後の数か月でさらに増える見通しだ。

 グリーンゾーン内で空気清浄機の製造会社を経営するダン・オルソン(Dan Olson)氏は、大麻栽培から得られる巨額の収益を見込んで街が変貌していくさまを目の当たりにしている。アデラントで同社を経営して12年になるというオルソン氏は「毎朝、砂漠に散歩に出かけると変化が分かる」と語る。「窓に黒いスモークフィルムを貼った車が何台も走っているし、雑草を引き抜いた場所にいくつも倉庫が立ち並ぶ。それで、ああ、大麻栽培が始まるんだなと分かるんだ」(c)AFP/Jocelyne ZABLIT