【10月31日 AFP】中国政府がチベット(Tibet)自治区へのメディアツアーを行うと発表した時、私はそのチャンスに飛びついた。実は同様のツアーは昨年予定されていながら直前に中止されていたので、ついに行けることになり非常にうれしかった。

 チベットを訪れるのは今回が初めてで、ジャーナリストとして行けるのは恐らくこれが最後になると思われた。それほどまれな機会なのだ。ツアーには17人のジャーナリストが参加し、6日間の旅程が組まれた。主都ラサ(Lhasa)に3日滞在し、残りは移動と南東部のニンティ(Nyingchi)訪問に当てられた。

(c)AFP/Johannes Eisele

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 中国政府は担当者3人を派遣し、さらにチベット自治区政府関係者も5~6人同行した。最初に訪れたラサでは皆、くつろいだ態度だったのが意外だった。

 私は既定の旅程が始まる前の早朝に寺院の写真を撮ろうと考え、朝食前に出掛けたいところがあると伝えた。駄目でもともとというつもりだったのに、公式旅程が始まる前には必ず戻るように言われただけで許可してくれた。この夜明けの2時間は、今回のツアーの中で最も気分が高揚した。

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 ジョカン(Jokhang)寺(大昭寺)のすぐ前には300人ほどが集まり、約2000人が寺の周辺で歩いたり祈りをささげたり、ひれ伏したりしていた。

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 白い香炉で香をたいている人もいた。彼らは私たちにさほどの注意も払わなかったが、中には笑いかけてくる人や、写真を撮られたくないと告げてくる人もいた。その焼香のにおいは、一日中私について回った。

 この光景によって私は奇妙なことに別のものを思い出した。中国では大勢の人が早朝に運動をする。朝の日課として、競技場の周辺や公園内を歩いている。この点ではチベットでも似たようなもので、皆やはり朝の日課として歩いていた。ただチベットの人たちが違ったのは、祈りもささげているという点だった。

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 同じ日の午後には公式旅程の一環で同じ寺を訪れた。だが雰囲気は朝とは全く異なっていた。中国人観光客が押し寄せ、写真を撮り合っていた。朝の平和な雰囲気は、騒々しい観光名所のそれへと一変していた。

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 結局ラサ滞在の3日間で、2つの寺院を訪れることができた。いずれの寺にも無数の人が訪れ、皆、祈っていた。

 ラサからニンティへの移動はバスで丸1日かかった。11時間以上乗っていた。その間ほとんどが、延々と続く国道318号線の工事現場脇のでこぼこ道だった。工事のせいで、雪を頂く山々の絶景が遮られることもしばしばだった。途中、海抜5030メートルという地点も通過した。

 ニンティでは、ラサほどの強い印象は受けなかった。観光地として開発される予定の場所へと案内されたが、写真撮影という観点からは、それほど面白くはなかった。訪問先には養豚場も含まれていた。日がなバスに揺られた挙げ句に泥まみれのチベットブタを見るのは、少々妙な気がした。

チベット自治区ニンティ市近くの高速道路建設予定地で稼働する建機。(c)AFP/Johannes Eisele
チベット自治区ニンティ市近くで中国当局が観光地を計画している場所にある無人の建物。(c)AFP/Johannes Eisele

 同行の担当者らが大いに気をもんだのは、われわれが高山病にかかるのではという点だった。あまり長く歩き回らないよう、何度も注意された。正直われわれ自身も若干不安だったので、用心していた。だが結果的にはそれほどひどくなく、参加者の1人が少々体調を崩しただけだった。私も初日は少し頭が痛くなり、非常に息苦しく感じることもあったが、概して大事には至らなかった。

(c)AFP/Johannes Eisele
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 私にとって何よりも素晴らしかったのは、このツアーが恐らくチベットを見て、嗅いで、感じることができる「千載一遇の好機」だと分かっていた点だ。過去10年間でチベットに足を踏み入れることができた外国人記者は数えるほどしかおらず、この状況は早々に変わるとも思えない。(c)AFP/Johannes Eisele

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このコラムは、上海(Shanghai)に拠点を置くヨハネス・アイゼレ(Johannes Eisele)カメラマンが、AFPパリ(Paris)本社のヤナ・ドゥルギ(Yana Dlugy)記者と共同執筆し、2016年9月22日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。