【10月12日 AFPBB News】ピンと張り詰めた空気。キレのある立ち振る舞い。着流し姿に、手元には刀——ではなく「火ばさみ」。東京・渋谷で、「何やつ!」と声を上げながら、道端のごみを拾っていく人影がある。

 彼らは通称「ゴミ拾い侍」。「時代組婆沙羅(BASARA)」というパフォーマンス集団のメンバーたちだ。国内外から多くの人が訪れる渋谷を舞台にしたチャンバラ劇は、他でもない「ごみ拾い」活動。毎週日曜日の午後、渋谷の街を数時間かけて練り歩き、ごみを見つけては、華麗に火ばさみを振りかざす。
 

東京・渋谷で、ごみを拾い、火ばさみを回すパフォーマンスをするゴミ拾い侍たち(2016年8月28日撮影)。(c)AFPBB News/Hiromi Tanoue


■侍たちの願い―ごみ問題を考えて

 活動は、渋谷・ハチ公前広場から始まり、スクランブル交差点や渋谷センター街など、人気エリアを順に巡っていく。拾ったごみを籠に入れたら「モラルのない心を成敗!」と掛け声をする。メンバーの松嶋康晃(Yasuteru Matsushima)さん(31)は「ごみを捨てた人の心を成敗するという意味。『罪を憎んで人を憎まず』の精神でやっている」と言う。

 街を回り終わる頃には、45リットルのポリ袋いっぱいの分のごみが集まる。その狙いは、街の清掃だけではない。パフォーマンスを通じて、ひとりでも多くの人にごみ問題や自然環境について考えてもらうことが目的だ。

 腰に火ばさみを収め、パフォーマンスを終えると、沿道からは「かっこいい」や「ありがとう」の声が。ときには拍手も湧き起こる。着流し姿で街を歩く彼らを物珍しげに見る人も多いが、ごみを拾っていると分かかると、賞賛の眼差しに変わるのだという。まるでヒーローを見つけたかのように、ついてくる子どもたちもいる。
 

パフォーマンスを見た人から質問を受けるゴミ拾い侍メンバーの松本悠資さん(2016年8月28日撮影)。(c)AFPBB News/Hiromi Tanoue


■「ゴミ拾い侍」誕生のきっかけ

 松嶋さんは、毎週欠かさずパフォーマンスを続けてきた。「今はモノがあふれている時代。ポイ捨てされているごみは本当に多い。いくら日本がきれいだといわれても、もっと一人ひとりがごみ問題や自然環境について考えていかなければいけない」と話す目は真剣だ。役者業にいそしむ傍ら、「気持ちがなければ伝わらない」と、着流し姿でない普段からごみを拾っているという。

 今年1月から東京で始まったこの活動。もともとは、代表の後藤一機(Ikki Goto)さん(50)が北海道・札幌で始めたものだった。後藤さんは、1980〜90年代に渋谷や原宿の歩行者天国で、ストリートパフォーマンスをしていた一人だった。ポイ捨てによるごみ問題で歩行者天国が廃止されたことをきっかけに、環境問題について考えるようになった。「北海道で雪がふぶく2月、ボランティアのおばさんたちがごみ拾いをする姿を見て、かっこいいなと思った。その火バサミが刀に見えた」。それが、「ゴミ拾い侍」が生まれた瞬間だった。
 

東京都渋谷区宮下公園で、拾ったごみを分別し、ごみ捨て場に運ぶゴミ拾い侍たち(2016年8月28日撮影)。(c)AFPBB News/Hiromi Tanoue


■「モラルのない心を成敗!」に賛同の輪

 彼らの活動はネット上でも話題だ。ツイッター(Twitter)に投稿された動画は、1日に9万リツイート、10万「いいね」を集め、再生回数は300万回を超えた。

 最近ではごみ拾いに参加する若者も現れ、火ばさみ“さばき”の指導を仰ぎに来た学生もいたという。活動への参加は、誰でも歓迎。事前に連絡があれば、参加者用の火ばさみも準備するという。この活動が広がり、いつか「世界中の道端からごみをなくすことにつながれば」と松嶋さんは願う。(c)AFPBB News/Hiromi Tanoue

東京・渋谷でごみ拾いをした後、沿道から湧き上がる拍手にお辞儀で応えるゴミ拾い侍たち(8月28日撮影)。(c)AFPBB News/Hiromi Tanoue