【10月14日 AFP】シリア南西部の町マダヤ(Madaya)は2年もの間、同国の政府軍に包囲され、外の世界との接触はほとんど途絶えている。人道支援物資の輸送車の到着もままならず、ジャーナリストが入ることはなおさら困難だ。

 そこで米ABCニュース(ABC News)とスーパーヒーロー物のコミックで知られる米出版社マーベル(Marvel)は、包囲下におけるシリアの人たちの過酷な生活を世界に知ってもらうための別の手段を見つけるためにタッグを組むこととなった。

 ABCニュースの記者たちは以前から、レバノンとの国境近くに位置する人口約4万人の都市マダヤで暮らす女性と連絡を取り続けてきた。5人の子をもつこの女性は、6年におよぶシリア内戦がもたらした厳しい状況を生き抜くための闘いをブログにつづり続けている。

 ディズニー(Disney)傘下のABCニュースとマーベルは、この女性が家族の身の安全を守るために匿名で投稿した情報を基にして、カメラでの撮影がかなわない地での恐怖を描いた電子コミックを制作し、無料で公開した。

 漫画の一コマ一コマには、流血シーンはほとんどないものの、胸を打たれるような場面が並び、母親の女性の力強い言葉とともに、包囲下で暮らす家族たちが耐え忍ぶ苦難が描かれている。

 マダヤでは2015年半ばに完全な包囲下に置かれて以降、60人以上が飢えや栄養失調により死亡している。

 ある場面では、以下のような言葉が並ぶ。「私たちの体は、もはや物を食べないことに慣れてしまっているのです」「子どもたちはお腹をすかせているのに(中略)食べ物を口にしたせいでひどい腹痛に苦しんでいます。あまりにも長いこと飢えていたので、この子たちの体は食べ物を消化し吸収することができないんです」

 イラストを描いたダリバー・タラジッチ(Dalibor Talajic)氏は扇情的な作品に陥るのを回避するため、意識的に努力しているという。「私が描きたいのは戦争漫画ではないんだ」と、1991年のユーゴスラビア解体を経験したクロアチア人のタラジッチ氏は言う。「まったく無力な立場に置かれた市民の目線で漫画を描きたいんだ」「彼らは何もできず、この状況が去るのを、もしくは自身が死ぬのを待ち続けるしかない」

 タラジッチ氏はマーベルのアンチ・ヒーロー漫画「デッドプール(Deadpool)」の作画を担当したことでよく知られている。デッドプールは同じタイトルで今年、映画化された。

 包囲下で暮らすシリア人たちの厳しい日常を煽り立てることなく伝えようとすることは、たやすいことではない。タラジッチ氏も「難しい作業だ」と認める。マダヤから情報を送ってくる女性の写真も、その家族の写真も見たことがないというタラジッチ氏は「他の人の苦難を搾取するのと紙一重の差しかない」と語った。(c)AFP/Thomas URBAIN