【10月8日 AFP】(写真追加)ギリシャのレスボス(Lesbos)島で、アフガニスタン人のメフディ・サレヒ(Mehdi Salehi)さん(33)は小石だらけの海辺でドローン(小型無人機)の離陸に最適な場所を探していた。趣味でドローンを飛ばすのではない。これは欧州を目指した航海で地中海(Mediterranean)やエーゲ海(Aegean Sea)で遭難する難民たちの命を救おうというプロジェクトなのだ。

 サレヒさん自身も15年前、当時はイスラム原理主義組織「タリバン(Taliban)」の支配下にあったアフガニスタンを逃れ同じようにして欧州に渡った元難民だ。その後、建築学の学位を取得したサレヒさんは自身の知識を生かして、かつての自分と同じ境遇にある難民たちを危険な航海から助けたいとの思いで「難民のドローン(Drones for Refugees)」プロジェクトを立ち上げた。目的は、遭難の危機にあるボートの位置を迅速に把握し、救助隊の到達時間を大幅に短縮すること。海上の難民たちにとっては救助されるまでの時間が生死の分かれ目となる。

 サレヒさんが講師を務めている米ニューヨーク(New York)のパーソンズ美術大学(Parsons The New School of Design)の同窓生や教員たちがプロジェクトを支援し、パートナーのクリステン・ケルシュ(Kristen Kersh)さんもプロジェクトに参加。二人は市販のドローンを購入して、これにカメラやセンサー、データ共有システムなどを搭載し、専用のウェブプラットフォームを立ち上げてレスボス島での試験飛行に臨んだ。

 ドローンに搭載されたカメラと赤外線センサーからの動画が、各ウェブサイトに加えて沿岸警備隊や救助隊、民間船舶などの携帯機器にストリーミング配信され、難民救出に向かうという仕組みで、将来的にはより大型のドローンを導入する計画だ。

■「金づち」の2人でエーゲ海を横断

 今から15年前の2001年、サレヒさんは友人と2人でトルコ西部イズミル(Izmir)からボートでエーゲ海を横断しギリシャのヒオス(Chios)島に渡った。この時に2人が使ったボートは、イズミルで20ドル(約2060円)で購入した子ども用のプラスチック製ボートだった。

「浅はかな決断だったし、私たちも非常に安直な若輩者だった」とサレヒさんは苦笑しながら語る。「密航業者に払うお金はなかったけど、イスタンブール(Istanbul)での暮らしは非人間的でもう耐えられなかった。私と友人は二人とも金づちで、実は船に乗るのも初めてだった。でも、これまで生き延びてきたのだから、今度も乗り切れるはずだと自分に言い聞かせていました」

 ギリシャに渡ったサレヒさんと友人は逮捕され、5か月の間収監されていた。だが偶然の出会いが彼の運命を変えた。サレヒさんらが収監されていた刑務所を国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)のギリシャ人医師、イザベルさんが訪れたのだ。

 ギリシャ政府に難民認定申請をしたいと考えていたサレヒさんはイザベルさんに力を貸してほしいと頼んだ。イザベルさんは弁護士を手配し、サレヒさんは申請に必要な書類をそろえることができたのだ。

「私はとても幸運だった」とサレヒさんは言う。「これまで出会った人たち、特にギリシャの人たちが様々な面で助けてくれました。彼らは私を励まし、私を信じてくれた。それこそが私たち難民や移民が必要としているもの。力強く生きていくチャンスが必要なんです」(c)AFP/Iliana MIER