■X線を遮る

 さらにクマムシは苛烈な宇宙空間にも動じないようだ。

 2007年、クマムシ数千匹を人工衛星に乗せ、真空の状態で生命を奪う恐れもある宇宙放射線に直接さらし、地球に持ち帰る実験が行われた。地球に戻ったクマムシはその多くが生存していたばかりか、一部の雌は後に卵を産んで健康な子孫を誕生させた。

 極限状態で生き延びるためクマムシは乾眠と言われる状態になることができる。この状態では極小の体の中にあるほぼすべての液体が失われ、代謝のペースが通常の1万分の1に減速する。これをクマムシがどのようにして行っているのか、科学者らはまだ解明できていない。

 大半の研究は、クマムシが損傷を受けたDNAを修復するための高度な能力を持っていると結論付けている。数十年続く場合もある極度の脱水状態から脱する際には特にDNAの修復が必要となる。

 橋本氏と研究チームはヒト細胞を用いた実験で、クマムシの持つDsupタンパク質はX線による損傷からもDNAを守るある種の物理的な防御物として機能する可能性があることを明らかにした。

 2015年、クマムシの一種のゲノム(全遺伝情報)を解読した別の研究チームがクマムシのDNA全体の約6分の1近くが異種の植物や動物から遺伝子の「水平伝播」によって獲得されたものだったと発表し、これがクマムシの耐性が並外れて高い理由だとする仮説を示した。

 これについては、異種の動植物の遺伝子の割合が高かったのはサンプルが汚染されていたからではないかとの指摘がなされた。橋本氏の研究結果もこの指摘が正しかったことを示唆している。

 橋本氏の研究チームは今回、クマムシの中で最も耐性が高いと考えられているヨコヅナクマムシのゲノムを100倍の精度で解読、外来遺伝子の割合が1.2%にすぎないことを発見した。

 この結果は遺伝子の水平伝播が耐性の主な要因ではないことを示唆していると橋本氏は述べている。(c)AFP/Marlowe HOOD