【8月21日 AFP】(更新、写真追加)政府軍に包囲されたシリア南西部マダヤ(Madaya)の病院で、10歳のヤマン・エゼディン君は目を閉じてじっとベッドに横たわり、髄膜炎の激痛に耐えている。両親ができることは、ただヤマン君を見守るだけだ。

 首都ダマスカス(Damascus)近郊にある反体制派の街マダヤは、2年前に政府軍に包囲され始めた。昨年の夏には完全包囲され、住民の大多数が食料と医薬品不足に苦しんでいる。

 2015年末に住民が餓死していると報じられたことから、マダヤには国際社会の注目が集まるようになった。病院も劣悪な状況にあり、治療のために緊急避難を必要としている子どもたちはヤマン君の他にも大勢いる。

 今月初めには、10歳少女のギーナ・アハマド・ワディ(Ghina Ahmad Wadi)さんが検問所で狙撃される事件も起きている。母親のために買い物に出たところ脚を撃たれ負傷した。

 そして、今週になって、マダヤ市内の活動家が、病気に苦しむ子どもたちの支援を求める手段の一環として、ソーシャルメディア(SNS)にヤマン君の動画を投稿した。ヤマン君の父親のアラーさんはAFPの電話取材に対し「息子は痛みのせいで泣きやまず、とても耐え難い」と語った。絶え間ない苦痛のためにヤマン君は両親の顔も分からないほどだという。

「誰に助けを求めればいいのか分からない...全世界、国連(UN)、赤新月社(Red Crescent)に息子を助けてくれと頼みたい」(アラーさん)

■頼みは野外病院一つだけ

 米NGOの2団体、「シリア系米国人医療協会(Syrian American Medical Society)」と「人権のための医師団(Physicians for Human Rights)」は先月、マダヤが包囲されて以降、これまでに市民86人が死亡したと発表。このうち65人の死因は飢えや栄養不良だったことから、政府軍による包囲が原因だとしてシリア政府を非難した。

 国連によると、シリアでは市民約60万人が包囲下での生活を強いられている。ほとんどは政府軍による包囲だが、同じ戦略として反体制派やイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が包囲している街もある。

 そうした中でヤマン君を含めて13人の子どもをマダヤ市外へ緊急避難させる必要があると、医療関係者は話す。マダヤには野外病院が一つあるだけで、医療品や機器不足から最低限の治療しかできない。患者の誰もがカルシウム不足に苦しみ、多くが栄養失調だという。

 国連のスタファン・デミストゥラ(Staffan de Mistura)シリア問題担当特使は18日、生後6か月の乳児を含む子どもたち16人を治療のためにマダヤ市外に避難させるよう要請した。

 マダヤ市内に残った医師はわずか3人。2人は歯医者で1人は獣医だが、医師不足から帝王切開や外科手術も行わざるを得ない。彼らが包囲下で目にしたひどい症例の一つは、両親が知らずに1歳の女児にしっくいが混入した粉ミルクを与えていたものだ。結果、女児は敗血症にかかってしまったという。(c)AFP/Layal Abou Rahal