【11月29日 AFP】ネパールの人里離れたアッパームスタン(Upper Mustang)にある古い僧院の奥深くで、神聖な壁画を修復し、伝統的なチベット仏教文化を保存する闘いが本格化している。

 チベット高原(Tibetan Plateau)にはかつてのムスタン王国特有の文化遺産が残る。中国の文化大革命(Cultural Revolution)による破壊でチベット仏教は大きな損害を受けたが、1990年代初頭まで外国人に閉ざされていたアッパームスタンの僧院は破壊を免れた。それでも長年の風雨で傷んでしまったチベット最古の僧院を守ろうと、ツェリン・ジグメ(Tsewang Jigme)さん(32)ら画家たちが懸命に活動している。

 アッパームスタンのローゲカル(Lo Gekar)僧院は、チベット仏教の創始者によって建立されたもので、1960年代に中国の文化大革命により深刻な被害を受けたチベット最古の寺院群よりも古くから存在する。

 しかし遺跡の泥壁は風雨で浸食され、木製の梁(はり)は腐り、明るいフレスコ画はチベット教の寺院でろうそくの代わりに使用される、乳脂肪分を燃料としたランプの煙で黒ずんでしまった。

 アッパームスタンで行われた2年間にわたる修復作業には100人以上の作業員と職人が携わり、遺跡の清掃、壁の再建、腐った梁の交換、彫刻の修復などを行った。

 2015年4月、ネパールは大地震に見舞われ、全土で約9000人が死亡し、50万軒ほどの家屋が倒壊した。地震によってアッパームスタンの城壁都市ローマンタン(Lo Manthang)では、旧王宮をはじめとする多数の中世建築が被害を受けた。しっくいの層ははがれ落ち、壁にひびが入り、500年前のフレスコ画の破片は床に散らばった。

 アッパームスタンで壁画の保存に携わってきたジグメさんはその活動について、「泥を取り除くのに長い時間がかかったが、徐々に神の顔が明らかになってきた」、「村の長老たちはこうした壁画を守るためにできることは何でもした。今度は人類の遺産を守るためにわたしたちができることをする番だ」と語る。

 地震による被害の修復には、ジグメさんのような画家が重要な役割を果たすことになるだろう。(c)AFP/Ammu KANNAMPILLY