■「ヤマルは小さな警鐘」

 現在の状況についてマレイエフ氏は、「気候変動は私たちに多くの驚きをもたらすだろう」としながら、「人々の恐怖心を煽るつもりはないが、私たちはその時のために備えておくべきだ」と主張する。

 また、今回の炭疽集団発生については、炭疽菌が眠っている地域での放牧行為によって起きたと考えられているため、本来ならトナカイへのワクチン接種で回避あるいは軽減できたとしている。この地域では、これまでに2000頭以上のトナカイが死んでいる。

 ヤマロ・ネネツ自治管区のドミトリー・コブイルキン(Dmitry Kobylkin)知事によると、家畜へのワクチンの投与は約10年前に廃止されたという。これについては、同地区は安全との誤った判断に基づくものだった可能性が高いと説明した。同知事によると、同管区で感染の影響が及んだ地域の面積は約1万2650平方キロメートルだという。

 自治管区政府は先週、これまでに1500人以上が予防接種を受け、706人が抗生物質を投与されていることを発表。住民らは、消毒処置が施された後、汚染されていない地域に移された。汚染地域では、兵士ら約270人が配備され、感染動物の死骸焼却などに当たっているという。

 今回の感染拡大について、同国の科学者たちは、政府の場当たり的な問題への対処を批判しており、温暖化対策の研究に十分な予算が確保されていないことを指摘した。

 海洋学者のバレリー・マリニン(Valery Malinin)氏によると、ロシア政府は2010年、泥炭火災による深刻なスモッグ問題に対応するため、気候プログラムを創設しているが、現在では、すでに機能しておらず、人々の記憶からも忘れ去られているという。

 環境問題へのこうした対応についてマリニン氏は、「ヤマルは小さな警鐘にすぎない。自然は私たちに挑戦し続けるだろう」と厳しい口調で警鐘を鳴らした。(c)AFP/Maria ANTONOVA