【8月4日 MODE PRESS】7月初旬、フランス・パリ(Paris)で開催された16/17年秋冬オートクチュールコレクションに中里唯馬(Yuima Nakazato)によるブランド「ユイマナカザト」が公式参加した。参加の約30ブランドには、「シャネル(CHANEL)」や「ディオール(Dior)」などの名だたるメゾンも。日本人デザイナーのオートクチュール参加は森英恵(Hanae Mori)以来、12年ぶりの快挙だ。

 30歳の中里は、オーロラのような輝きを放つ独自のフィルム素材を使い、3Dプリンターを駆使した最先端モードで観客を魅了。歌手のレディー・ガガ(Lady Gaga)やブラック・アイド・ピーズ(Black Eyed Peas)などのステージ衣装も手掛ける中里ならではのシアトリカルな世界観をアピールした。

「ユイマナカザト」16/17年秋冬オートクチュールコレクションより。(c)YUIMA NAKAZATO

■初コレクションへの道のり

 東京出身の中里は高校卒業後、ベルギーの名門アントワープ王立芸術アカデミー(Royal Academy of Fine Arts)に進学。2008年に卒業後、24歳でブランドを立ち上げ、以来東京を拠点に活動している。

 オートクチュールコレクションには、サンディカ(フランス・オートクチュール・プレタポルテ連合協会)による厳正な書類審査や面接を通らなければ参加できない。パリで活動したことのない中里にとって、その挑戦は苦労の連続だったという。「多くの業界人に『いばらの道だよ』とは言われていたけれど、確かにこれは大変だなと思った」と中里は苦笑いする。「でも今、オートクチュールが非常に注目されており、規定が厳しかった時代に比べるとかなり緩和もされてきている。トライしたいと思えば、チャンスがある」

オートクチュールのドレスを手にする中里(2016年7月25日撮影)。(c)MODE PRESS/Yoko Akiyoshi

■これが100年先のデイリーウェア

「ユイマナカザト」の大きなテーマは「宇宙」「未来」「自然」の3つだ。今回はアイスランドからインスパイアされ、洞窟の中や海面からのぞいた氷の色などをフィルム素材で表現している。パーツを一つ一つ手作業で金具留めしてドレスを形作っており、布やミシンはほとんど使っていない。

 近未来的な要素が目立つが、実は随所に江戸切子や漆といった日本の伝統的技術も取り入れられている。「伝統的な服作りでは、老舗メゾンに絶対かなわない。そこに真っ向勝負でいくよりは、テクノロジーや日本のクラフトマンシップを披露したほうがパリで受け入れてもらえると考えた。従来のやり方ではなく、新しいアプローチこそが自分の役目」

造形的なバッグも人気を集めている(2016年7月25日撮影)。(c)MODE PRESS/Yoko Akiyoshi

■ホログラムの可能性

 虹色に光るフィルム素材「ホログラム」は中里のシグネチャーだ。「夕日や星の光などをファッションで表現したいと思っていたとき、ホログラムに出会った」とそのきっかけを語る。もともとは通気性も伸縮性もなく、服には不向きな素材だったが、加工することで強度や屈性を上げた。実際に触ると柔らかさもあり、動くと弾むような弾性もある。また表面にUVプリントを施しており、見る角度や動き、環境などによって色が変化するのも特徴だ。

 さらに、中里は「ホログラム」で手のひら大のパーツを形成し、その数や組み合わせによって、ドレスのデザインやサイズを調整。あらゆるニーズに対応する、柔軟な構造を考案した。

UVプリントを施した「ホログラム」(2016年7月25日撮影)。(c)MODE PRESS/Yoko Akiyoshi

■バイオテクノロジーの洋服

『インターステラ―(Interstellar)』や『エクス・マキナ(Ex Machina)』などのSF映画を見て、未来を空想するのが好きだという中里。「未来を自分の手で具現化したいという気持ちが、物を作る上で大切な原動力になっている」

 そんな中里が未来を意識した服作りを行うのは自然な流れだと言えよう。この先テクノロジーの進化により、個人のために作られた服、すなわちオートクチュールがより手軽に手に入る時代が来ると中里は考える。

 そしてそれを可能にする技術の1つが、3Dプリンターだ。複雑な造形を小ロットで生産できる点はもちろん、中里はさらなる可能性に想いを馳せる。「インクに細菌を混ぜることで、その性質を取り入れられる。発光したり、形が変化したりする生地ができるかもしれない」。そう夢中になって語る中里のまなざしは、まるで少年のようだ。

「ホログラム」を使ったクラッチバッグ 45,000円(税抜)(c)YUIMA NAKAZATO

■手の届くオートクチュール

 将来的には大量生産でありながら個人のニーズに細やかに対応する製品を目指す。「オートクチュールや舞台衣装は一部の限られた人への商品やサービス。そこから得られる知識や経験を、最終的には一般の人たちに還元していきたい。そのためのオートクチュールへのチャレンジとも言える」

「ユイマナカザト」はすでに「ホログラム」を使ったトートバッグやカードケースなどの一般展開も開始している。まるで宇宙から届いたかのような不思議なテクスチャーは、人々の装いに新たな風を吹き込んでくれそうだ。若いクチュリエの描く未来は、今始まったばかりである。

■関連情報
・ユイマナカザト公式サイト:http://www.yuimanakazato.com/
(c)MODE PRESS