【6月11日 AFP】ロシア国営テレビのクルーが10日、同国の国家ぐるみのドーピング疑惑を放送したドイツ人記者へのインタビューで、ジャーナリストの役割についての議論が白熱した後、インタビューしていた部屋を追い出されていたことが分かった。

 国営テレビロシア1(Rossiya 1)のクルーは、ドイツ公共放送ARDでロシア人アスリートのドーピングを暴いた一連のドキュメンタリーを制作したジャーナリスト、ハイオ・ゼッペルト(Hajo Seppelt)氏をインタビューするためにドイツに渡った。

 10日に「暴露者を暴く」というタイトルで繰り返し流されたロシア1の報道では、ゼッペルト氏が有名人で贅沢な暮らしをしていることにスポットライトが当てられており、その結果クルーは道路に追い出されることとなった。

 ゼッペルト氏は、ロシア陸上界におけるドーピングの正式な捜査が始まるきっかけとなった2014年のドキュメンタリーも制作しており、これによりロシア陸上競技連盟(ARAF)は処分を受け、同国の陸上チームはリオデジャネイロ五輪から除外される可能性がある。

 8日に放送されたARDの追跡番組では、反ドーピングシステムの改革や、ルールに反する行為の一掃を約束しても、ロシア当局はドーピング疑惑のあるコーチのために今でも事実を隠していると報じられている。

 番組でロシアの女性ジャーナリスト、オリガ・スカベエワ(Olga Skabeyeva)氏と対峙(たいじ)したゼッペルト氏は、なぜロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領を攻撃しているのかや、ドキュメンタリーを作るための資金について質問され、見た目にも不機嫌な様子を強めていった。

 番組ではゼッペルト氏が滞在するホテルに散乱していた同氏の私物にカメラが向けられ、贅沢な暮らしについて言及されていた。

 ゼッペルト氏は、「私はスパイではない。ジャーナリストだ」と話し、その後ジャーナリストはどうあるべきかという議論がヒートアップすると、「このインタビューは終わりだ」と口にしている。

 スカベエワ氏が、ロシアが五輪に出場できないことをただ心配しているのだと発言すると、ゼッペルト氏はジャーナリズムについての自身の見解を述べようとしている。

「あなたは、あなたの国の友人であってはならない。なぜならあなたはジャーナリストだからだ。あなたは独立した存在でなければならない。あなたはジャーナリストの役割が分かっていない」

 そのほとんどが国家によってコントロールされているロシアのテレビでは、ドーピングについての報道が真実ではない、ねじ曲げられているとお決まりのように放送されており、政治的な批判を報道するのは禁じられている。

■「堪忍袋の緒が切れた」

 独ケルン(Cologne)で撮影された番組でゼッペルト氏は、一方的にインタビューを終わらせ、部屋の外にクルーの機材を出し、プーチン大統領の信用を損なわせることが目的なのかと質問するスカベエワ氏を部屋から追い出している。

「私はばかげた質問には答えない」と答えたゼッペルト氏は、クルーが階段を下りているときに怒鳴りながらカメラをたたき、道路に追い出した後で警察に電話をすると脅していた。

 AFPに届いたコメントでゼッペルト氏は、番組で起きたことは「挑発」のようなものであり、クルーが部屋を出て行ってほしいという要求を無視したため我を失ったという。

「ホテルの部屋から出て撮影をやめるように30分説得した後、私の堪忍袋の緒が切れた。私が警察に電話をしていることに気づいて彼らは立ち去った」

 ロシア外務省のマリア・ザハロワ(Maria Zakharova)報道官は同国のクルーを擁護しており、ゼッペルト氏は、「ジャーナリストを攻撃したということだけではありません。さらに言えば、より弱い性の代表者を攻撃したのです」とコメントしている。

「私はとてもショックを受けています。(ジャーナリストの)職業団体も反応を示すべきだと考えます」

(c)AFP/Maria ANTONOVA