【5月23日AFP】国家はアラー(神)に勝る──中国最大のイスラム研究所で学ぶワン・ユエさんは毎朝、通学するたびにそれを再認識する。研究所の正門には、白い大理石板に金文字で「国を愛し、宗教を愛せよ」とのスローガンが刻まれている。構内のあちこちで、このスローガンは繰り返されている。

 中国では、「愛国」とは共産党の一党支配を支持することと同義だ。中国共産党が公式に無神論を掲げていることを考えれば、この「国」と「宗教」の対比には、単なる序列にとどまらない印象深さがある。

 しかし、学生たちは経済学者カール・マルクス(Karl Marx)の理論と預言者ムハンマド(Mohammed)の教えとの間に、特に矛盾を感じてはいない。

「良い人でいることにも、良いイスラム教徒であることにも、祖国愛は含まれている」と、中国北部・寧夏回族自治区(Ningxia Hui Autonomous Region)にあるこの研究所で4年制課程の最終学年に在籍するワンさんは言う。「マルクス主義(Marxism)と宗教は、互いに矛盾するものではない。他の宗教や異なる理論について学び知れば、私たち自身の信仰をより深く理解できるようになる」

 中国では憲法で信教の自由が保障されているが、当局は厳しい制約を課している。公認する宗教体系は5つのみ、礼拝場所は承認制で、教義さえも統制しようと試みている。

 中国のイスラム教徒の大半は、2つの大きなグループに属す。寧夏を中心に暮らし、宗教以外は漢民族と多くの共通点を持つ回族(Hui)と、中央アジアに多いテュルク系民族のウイグル人(Uighur)だ。いずれも宗派はスンニ派(Sunni)だが、回族がおおむね漢民族社会に溶け込んでいるのに対し、ウイグル人をめぐっては中国当局が、新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)で暴力事件を起こしているとして、テロリズムや分離主義と合わせて宗教的過激主義をしばしば強く非難する。