【6月1日 AFP】フォトグラファーの私が最も撮りたいのは、みんなを「ワオ」と言わせるような写真だ。直感的に、そして感情的に人々に衝撃を与える写真を撮りたいといつも思っている。これまで地震や森林火災、火山の噴火も撮影してきたが、竜巻を目にしたことは一度もなかった。今までは。

 膨大なリサーチの結果、竜巻にはシーズンがあることが分かった。竜巻が頻繁に発生する「竜巻街道(Tornado Alley)」でも、年に3~4か月、その頻度がさらに増える時期がある。そして、竜巻を追跡して人々を竜巻の近くまで連れて行くツアーが運営されていることも分かった。私はその中の1社に連絡して予約した。

(c)AFP/Josh Edelson

 私が選んだ男、ロジャー・ヒルはコロラド(Colorado)州を拠点にこの仕事を30年間やっている。彼は竜巻を目撃した回数でギネス世界記録(Guinness World Records)を持っている人物だった。その数、2015年12月時点で630回。つまり、ベテランだ。

 私はこのツアーがどんなものなのか、全く予想できなかった。竜巻追跡ツアーは通常、7日間で2700ドル(約30万円)。この値段のせいで私は以前、ツアーへの参加を断念したことがある。

 結局、竜巻を見るためには車を走らせなければならなかった。走って、走って、また走って。私が参加したツアーには、バン3台に18人が乗っていたが、北はワイオミング(Wyoming)州まで、南はテキサス(Texas)州とメキシコの国境沿いまで走り続けた。ツアー参加者の一人が走行距離を測った。私たちは計5183キロ走り、バンの中で77時間45分過ごした。

 考え方はシンプルだ。竜巻が起きそうな兆候を察知したら、そこへ向かうだけ。興味深いことに、竜巻は多くの気象条件が重なって初めて起きるものであり、発生は珍しい。

 ツアーの7日間で、私たちは一度も竜巻を見ることができなかった。ロジャーによれば、ツアーに参加して竜巻を目撃できない確率は20%だという。

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 最終日、私たちはコロラド州東部にいた。嵐が巨大化しており、期待できる状況だった。だが、私たちのホテルからその場所まで車で8時間。私たちは翌朝の飛行機に乗る必要があったし、ロジャーはすでに何時間も運転してきたドライバーを徹夜で運転させたくなかった。だから私たちはUターンして帰ることにした。

 帰り道、竜巻を追って反対方向に走る車を何台も見た。Uターンしてから40分後、私たちがいたちょうどその場所で、複数の竜巻が発生した。追って行った人たちは、その迫力ある映像を生中継した。私たちはバンの中で顔を見合わせ、頭を振るしかなかった。

 言うまでもなく、私たちは腹を立て、落ち込んだ。私を含めた8人は、もう1日残ることにしてフライトを変更した。その日は母の日だったため、私は母に電話して「母さん、ごめん。今年は母の日を祝ってあげられない。もう1日残ったら竜巻を見られそうなんだ。どうしても見たいんだ」と言って理解してもらった。

 翌日、竜巻は発生しそうでしなかった。またダメだった。

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 その翌日の月曜日は、見込みがありそうだった。そこで私はチャンスに賭けることにし、また手数料を払ってフライトを変更した。

 私たちは、オクラホマ(Oklahoma)州の州都オクラホマシティー(Oklahoma City)から南へ約2時間の所にいた。竜巻が起きそうな予感がする天候だった。前日には、道路でヘビをひいていた。ヘビをひくと、竜巻を目撃できるという迷信があるらしい。湿度は高く、気温も適温、複数の嵐が大きくなっていることが探知された。私たちはガソリンスタンドで止まり、どの嵐を追うかを見定めながら、その時を待った。

■最初はありがちな雷雲

 空には雷雲ができ、大きくなり始めた。本当に、みるみる大きくなっていった。コマ送りされたビデオを見ているように、どんどん大きくなり、25分間のうちに3倍の大きさになって、その黒く巨大な怪物は頭上に迫ってきた。

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 ロジャーは、南側にあった嵐に可能性があるとみた。そこで私たちは南へ向かった。頭上の嵐はどんどん大きく、大きく、大きくなっていた。そして突然、ロジャーが叫んだ。「フックだ、フックができている!」

 ここで少し気象学の話をしたい。私は専門家ではないが、勉強したところによると、竜巻はメキシコ湾(Gulf of Mexico)からの暖かく湿った空気が、カナダからの冷たく乾いた空気と衝突することで発生する(だから竜巻街道は米国のちょうど真ん中を突っ切っている)。

 この2つが衝突すると、不安定な状態が生まれる。そこで風速や勢力が増幅すれば、強大な竜巻が生まれるというわけだ。竜巻追跡の業界用語では、気象レーダーで捉えた嵐に釣り針状の「フック」が見られるようになったら、竜巻に発達する可能性が高い。

 だからロジャーは、私たちの頭上にあった嵐を追跡することに決めた。私たちは高速道路を降りて待った。すると5分もたたないうちに空が真っ暗になった。そして無線から、「竜巻! 竜巻! 竜巻! 右側だ! 右!」と叫ぶロジャーの声が聞こえてきた。

 ついに、私は本物の竜巻を見ることができた。

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 竜巻からはかなり距離があったので、それはレコードプレーヤーの針のように見えた。何日もバンで何キロも移動し続けた結果、ついに見ることができて達成感でいっぱいだったのは間違いない。だが一方で、「これだけか? それほど感動的でもないな」と思ったのも事実だ。

 だが、竜巻がどんどん近づいてきて、4、5分で私たちに向かって一直線に接近してくると、不安になってきた。

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 ゴルフボールのサイズほどのあられが降ってきたので、私はヘルメットをかぶった。でもロジャーの「大丈夫だ」との声に、私たちは安心して竜巻観察を楽しんだ。

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 ロジャーは竜巻の危険性も熟知していた。3年前、彼の親友で同じく竜巻追跡の仕事をしていたティム・サマラスさんとその息子がオクラホマ州の竜巻に巻き込まれて亡くなった。

 竜巻に関する研究で名が知られ、受賞歴もあったサマラスさんたちはその日、竜巻の「核心を突いて」怒らせてしまった。彼らが雨やあられが降りしきる竜巻の中へと進んでいた時、竜巻は進路を予想外の方向に変えた。彼らは、不幸にも命を落としてしまった。

 以来、ロジャーは安全により配慮するようになった。だから、彼が「大丈夫だ」と言ったら、本当に安全なのだと安心できた。

 竜巻が近づくにつれて、そのうねりが聞こえてきた。私たちから400メートルほど離れた道路を横切ったのが見えた。

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 突然、大量の風が吹いてきた。私たちはついに竜巻を目の当たりにできたことに興奮し、ハイタッチをして喜んだ。

竜巻追跡に成功し喜ぶロジャー・ヒル(左)と筆者。(c)Josh Edelson

 そしてロジャーが言った。「人々のために祈ろう。あのがれきは誰かの家が壊れて飛んできたものだ。誰もけがをしていないことを祈ろう」

 これが、竜巻追跡におけるもろ刃の剣だ。一方では竜巻を目撃することに興奮しているが、他方で人々の家を破壊しているという現実がある。木々が割れる音を聞くと、「家が壊れている」と実感する。

 一帯はがれきとあられだらけだった。竜巻の中にすべてが吸い込まれ、木々が根こそぎ持っていかれる音も聞こえた。その瞬間にも誰かが犠牲になっているかもしれないと考えると、とても怖かった。この強大な自然を前に、自分の存在がいかに小さいものかを思い知らされた。

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 写真撮影はかなり難しい状況だった。ついに目撃できたことにとても興奮していた私だが、ふとわれに返り、どのレンズを使って、シャッタースピードはどれぐらいにして、どんな構図で撮ればいいかなどを考える必要があった。

 5分ぐらいマニュアルフォーカスで撮影していたと気付き、「ちくしょう、全部台無しにしてしまったか?」と慌てる場面もあった(幸い、大丈夫だった)。

 竜巻をすべてフレーム内に入れようともした。それは、まさに怪物だった。巨大で不気味で、この世のものとは思えなかった。

 そして、それは小さくなり始めた。黒く巨大な煙突のようだったものが、揺れ動くゾウの鼻のように、室内ランプのように小さくなっていき、最後には跡形もなく消えた。すべては30分ぐらいの出来事だったと思う。

(c)AFP/Josh Edelson

 竜巻の怖いところは、何の前触れもなく発生することだ。警報は響き渡っていたし、iPhoneのアプリでも警報の知らせが入る(ロジャーたち追跡者が使うこともある)が、それらの警報は竜巻が実際に地上で発生して少なくとも10分から15分たたないと発せられなかった。結局、私が見た竜巻では2人が死亡した。

 その竜巻が消えてから2分後、それほど遠くない場所で別の竜巻が発生したとの連絡を受けた。直径1.6キロほどもある巨大な竜巻だった。稲光があちこちで光った。まるで神様が地球を吸い込むために巨大な掃除機を送ってきたみたいだった。雨が降りしきっていたので、私たちがいた場所からはほとんど見えず、私は写真を撮ることができなかったが、友人は素晴らしいショットを何枚か撮った。

 竜巻が雨に包まれている状態は、追跡者にとって最悪の状態であり、動きが見えないために危険でもある。 

 このように、私の最終日はあらゆる意味で強烈で緊迫した1日だった。それは、私がこれまでに見た中で最も素晴らしい光景だった。同時にそれは謙虚な気持ちになる体験でもあった。自然が生んだ竜巻の威力を思い知り、自分の存在の小ささを見つめ直すことができた。「家にいて普通に生活していたら突然、死に神が訪れてドアをノックしてくることもあるのだ」と考えずにはいられなかった。(c)AFP/Josh Edelson

このコラムは、サンフランシスコ(San Francisco)を拠点とするフリーカメラマンのジョシュ・エデルソン(Josh Edelson)がフランス・パリ(Paris)のヤナ・ドゥルギ(Yana Dlugy)記者と共同執筆し、2016年5月13日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。

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