【5月25日 AFP】インドネシア・ジャワ(Java)島シドアルジョ(Sidoarjo)県の泥火山一帯。観光客を案内しながら、ハルワティさんは作り笑いを浮かべる。観光客が自撮り写真を撮っている泥の湖には、かつてハルワティさんの村があった。

 10年前、村の近くの水田の地下から突然、刺激臭の強い高温の泥が噴出した。流れ出る泥土に多数の村や工場、店、幹線道路までもが埋もれた。被災地の地下にあったガスパイプラインが爆発すると、13人が死亡、数千人が家を失った。

 泥にすべてを流されたシングルマザーのハルワティさんにとって「災害観光客」は命綱のような存在だ。現在、住民たちは噴出が止まらない泥の湖を興味本位で見に来る人たちを相手にわずかばかりの金を稼ぎ、日々の生活をしのいでいる。「生計を立て、子どもたちを学校に通わせる唯一の手段」だとハルワティさんは言う。観光客たちは、泥の中に半分沈んだ顔のない像の横でポーズを取る。その像は災害犠牲者の慰霊碑だ。

 災害発生から間もなく10年を迎えるが、泥土の噴出は収まる気配がない。五輪の水泳競技で使われるプール10個分に相当する泥水が毎日湧き出し、サッカー競技場650個分ほどの広さの土地が深さ40メートルの泥に沈んだ。

 2006年5月29日、人口密度が高いこの農村地帯に初めて泥土が噴出して以来、原因をめぐりさまざまな仮説が飛び交ったが、主要な説は天然資源の掘削と地震の2説だ。

 溶岩や火山灰ではなく泥水を噴出する泥火山は世界に数多くあるが、シドアルジョのものは世界最大とされている。巨大なセメントの球を詰めるなど、噴出を止める努力は実っていない。一帯は災害地区に指定され、立ち入り禁止の看板が立っている。