【5月30日 AFP】テロ容疑者も、大量殺人犯も、戦犯も、すべて弁護人を必要とする。しかしその役を引き受けようとする者に対しては、時に無理解や嫌悪感、さらには暴力さえも向けられることがある──。

 昨年11月に起きたパリ(Paris)同時襲撃事件のサラ・アブデスラム(Salah Abdeslam)容疑者の弁護人選定過程で、「怪物」とか「社会の敵ナンバー1」とも称されるこの依頼人の弁護を引き受けたのは、仏人弁護士フランク・ベルトン(Frank Berton)氏だった。

■容疑者の人権と、凶悪犯弁護の難しさ

「確かに、ちゅうちょした」とベルトン弁護士がテレビカメラに語ったのは4月、アブデスラム容疑者が身柄をベルギーからフランスへと引き渡され、世間からの注目を集めた時だった。

 130人が死亡したパリ同時襲撃事件の犯行グループのメンバーで、判明している唯一の生存者であるアブデスラム容疑者は、フランス国民が大量殺りくへの悲しみと怒りをぶつけることができる唯一の「形ある標的」とも言える。

 ベルトン弁護士は、自らの仕事では「依頼人とひとくくりにされやすい」ことを十分すぎるほど理解している。「もちろん、私がやっている仕事を理解しようとしない人もいる。だが、われわれが生きているのは民主主義国家であり、サラ・アブデスラム容疑者も言うべきことを持つ一人の人間だ──物事を理解せずして、公平な裁きはない。さもなくば裁判に意味はないし、被害者にとっても有用なことなどない」

 だが、同じくアブデスラム容疑者の弁護人を担ったベルギーのスベン・メアリ(Sven Mary)弁護士は、イスラム過激派の弁護人を請け負ったことについて「いいことなどなかった」と言い切る。同氏は仏紙リベラシオン(Liberation)に対し、言葉による非難だけではなく物理的にも攻撃されたと述べ、さらには娘の通学に警官の護衛さえ必要になったと語った。

 7歳少女への性的暴行殺人の罪に問われながら、1989年に無罪となったリシャール・ロマン(Richard Roman)氏の代理人を務め、怒った群衆に襲撃された経験がある熟練弁護士、アンリ・ルクレール(Henri Leclerc)氏(81)は「裁判における弁護は強制。民主主義の原則における基本だ」と述べている。