【5月24日 AFP】韓国の首都ソウル(Seoul)の一等地、江南(Gangnam)地区で18日、女性(23)が見知らぬ男(34)に惨殺された。この事件をきっかけに、各地で非難の声が上がり、女性蔑視に基づく暴力行為の多発をめぐる論争が巻き起こっている。

 事件は、地下鉄江南駅付近の公衆トイレで発生。警察によると、金(Kim)という姓のみ公表されている容疑者は、「女どもに見下されている」と感じていたため犯行に及んだと供述しているという。翌19日には駅前で夜通しろうそくをともして追悼式が行われ、数百人が参列した。

 警察は、金容疑者が急性統合失調症と診断されていたことも明かしているが、容疑者のこの発言を受けて、社会は女性に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)に対処すべきであり、この事件を「風化」させてはならないというツイッター(Twitter)が広がった。

 事件後、江南駅出口には若者を中心に数千人が集まり、多くの花が手向けられた他、外壁は弔意を記した付箋で覆われた。

 事件と世間の反応は大々的に報じられ、中央日報(JoongAng Daily)は20日、女性を対象とした犯罪に関する社説を掲載。精神の不安定な若い男による無差別攻撃だったとはいえ、本件によって性暴力行為をめぐりくすぶってきた怒りと懸念が表面化したと論じた。

 韓国では暴力犯罪率は概して低いが、近年は性暴力事件が増加している。女性団体は、根強い儒教精神に基づく性差別が主因と指摘。暴力行為に及ぶ韓国人男性らは、自己の行為を犯罪と認識しておらず、女性側も、声を上げればまた被害に遭うのではないかと極度におびえていると語った。

■「増える」暴力行為

 韓国女性団体連合(KWAU)は事件後に声明を出し、「わが国の社会では、女性やその他の少数派に対する暴力と憎悪が増えている」と非難した。

 また、インターネット上の掲示板が増え、女性への暴力脅迫が繰り返し投稿されるなど、女性蔑視発言が野放しにされていると指摘する人権団体もある。

 専門家らは、競争が激化し階級意識が強い韓国社会において、若者の失業率が急上昇し所得格差が拡大していることが自尊心の欠如を招き、新たな緊張を生んでいるとみている。

 ソウルにある西江大学校(Sogang University)のチョン・サンジン(Chun Sang-Chin)教授(社会学)は、韓国は「極めて男性支配的な」社会であり、因習や価値感がこれまでほとんど問題視されてこなかったと指摘。

「今、人々の生活はかなり不安定で不安なものになってきている」とした上で、「人々は自分が弱いと感じており、その怒りをぶつけるため、さらなる弱者に矛先を向けている。そのような場合の典型として標的になるのは、女性や少数民族だ」と述べた。(c)AFP/Hwang Sung-Hee