■安価なツアーで市場に混乱

 しかし5年ほど前から、主に元ガイドやポーターが経営する地元の会社が安価なツアーを提供し、市場に混乱を招いている。

 安い理由は、クライアントのスマートフォンやパソコンのための無線接続やバッテリーといった必要不可欠ではないぜいたくなサービスを割愛しているためだが、安い労働力を使っているからだとの指摘もある。シェルパの職を得て貧困から抜け出そうとしている若者たちを利用しているのだ。

 ネパール観光庁のスダルシャン・プラサド・ダカール(Sudarshan Prasad Dhakal)長官は、政府にはそうした懸念の声は聞こえてこないと語る。地元にはむしろ、これまで市場を支配してきた欧米企業の負け惜しみだと指摘する声もある。

 地元のツアー企業セブンサミット・トレックス(Seven Summit Treks)を経営するミンマ・シェルパ(Mingma Sherpa)氏は経験の少ない人材を雇っているガイドの一人だ。毎シーズン、最大25人の新人をエベレストに送っている。同氏は、新人は研修ではなく現場で仲間から学んで技術を身につけると述べ、安全性に問題があるとの指摘を一蹴した。

 一方、別の地元企業でヒマラヤで活動する最も古いツアー会社の一つ、アジアン・トレッキング(Asian Trekking)のダワ・スティーブン・シェルパ(Dawa Steven Sherpa)社長は懸念を強めていると言う。「訓練を受けていないシェルパと経験のない登山家は最悪の組み合わせだ。だが幸いにも、事故が起きたときに駆け付けてくれる装備の整ったツアー会社が近くにあるが」

 これまでエベレストで何度も救済活動に当たってきたアルゼンチン人の登山ガイドのベネガスさんはかなり厳しい状況だと考えている。「彼らの国であり、彼らの山だ。彼らにはやりたいことをする権利がある。でもコストについては正直でないといけない」

(c)AFP/Ammu KANNAMPILLY