【6月30日 AFP】いつだったかはっきり覚えていないが、少し前に私はレバノンでバイクに乗る女性たちがいることを知った。今やさまざまな側面を持つこの国は多くの意味で非常に欧州的だが、それでも中東にあることに変わりはなく、女性がバイクに乗るのは珍しい。そこで私は取材してみることにした。

 レバノンに戻ってきてから、私はニュースよりも社会を映し出すようなライフスタイルに関するテーマに多くの時間を費やしてきた。

 レバノンを知らない人のために言っておくと、ここは何かと対比の目立つ国だ。朝スキーをして、午後にはビーチで過ごせる国だと言われることも多い。小さい国なので、1日のうちに山から海岸まで行くこともできる。

 社会についても同じことが言える。首都ベイルート(Beirut)には、女性が頭のてっぺんから爪先までベールをかぶり、厳格なイスラム地区だとすぐに分かる保守的な場所から、露モスクワ(Moscow)や仏パリ(Paris)、米ロサンゼルス(Los Angeles)の一角に移しても違和感のないような、女性がミニスカートやヒールで歩き回っている地区もある。レバノンは、アフガニスタンの旧支配勢力タリバン(Taliban)から男性ストリッパーグループのチッペンデールズ(Chippendales)まで、ありとあらゆる人が暮らしている国だと私は思っている。

 

レバノンのグレース・カサビさん。(c)AFP/PATRICK BAZ

 

■固定概念からの脱却

 ここに女性バイカーがいると知った私は、少しリサーチしてみた。すると、1人か2人ちらほらいるという程度ではなく、レバノンには約500人の女性バイカーがいることが分かった。そこで私は写真を撮ることに決めた。

 女性バイカーらは非常に歓迎してくれた。われわれメディアは、アラブの女性といえば保守的で信仰心があつく、ベールをかぶっているという固定概念にとらわれがちで、その点では誰しも同じではないだろうか。だが実際はもっとずっと多様だ。私の写真を見てもらえれば、胸に浮かぶいわゆる「アラブ女性」というイメージからは懸け離れているはずだ。

 

レバノンのニッサ・ハッジさん。(c)AFP/PATRICK BAZ

 

 AFPの編集者らは、私の写真の一部は「アイドル」カレンダー向けみたいだなと冗談を言った。だが、撮影を引っ張ってくれたのは女性たちの方だった。彼女らはこう写りたいという思いを明確に持っていた。私はただ、例えばバイクに乗ったところで1枚、さらにバイクの近くで1枚撮りたいといったお願いをしたまでで、あくまで彼女たちが撮影を仕切り、こういう感じの写真がほしいと希望を伝えてくれた。

 

レバノンのニッサ・ハッジさん。(c)AFP/PATRICK BAZ

 

 典型的なイメージとは違うものを見せようというのが私の狙いだった。われわれは成功したと思う。

 

レバノンのアニー・バデルさん。(c)AFP/PATRICK BAZ

 

■自由の実感

 女性の境遇はそれぞれ異なっていた。レバノンには、イスラム教スンニ派(Sunni)もいればシーア派(Shiite)もおり、キリスト教徒もいて、女性らも各宗派に属していた。全員に共通していたのは、中流か富裕層の出身だということ。皆教育を受け、仕事を持ち、信仰熱心な人はいなかった。もし信仰心が強かったら、冷たい目で見られるバイクに乗るような行為はしないだろう。それに、そろって寛容な態度の持ち主ばかりだった。そうでなければ、中東の国でライダーにはならないはずだ。

 ただ、問題が全くないかといえばそうでもない。例えば両親が許さないからという理由で、バイクに乗っていることを家族に内緒にしている人もいた。

 

レバノン・ベイルートでハーレーダビッドソンに乗る女性バイカーたち。(c)AFP/PATRICK BAZ

 

 彼女たちに一つ共通していたこと、それは自由だった。皆が口にしたのは、バイクに乗ることで得られる自由の実感だった。

 女性らが暮らしている場所を考えれば驚かれるかもしれないが、他のバイカーから否定的な言葉を聞いたことはないと話している。もちろん、わざわざ批判されそうな地域には行かないとはいえ、他のライダーは概して肯定的に受け止めているという。警官にどっちが速いかレースを仕掛けられ、断った女性もいた。もし自分が勝った場合にどんな目に遭うか、危ない橋は渡りたくなかったのだろう。

 

レバノンのスーザン・ハラフさん。(c)AFP/PATRICK BAZ

 

 レバノンのバイカーらは、皆レバノン人というわけではなかった。アラブ諸国の中には、女性にはバイクはおろか、車の運転でさえ禁止しているところもあり、一部はそういう国の人々だった。例えばサウジアラビアから2~3人、スーダンから1人来ていた。

 撮影が終わり、写真を編集者に提出すると、このプロジェクトを他の国や地域に拡大してみてはどうかと提案された。中東や北アフリカのレバノン以外の国々にいる、普段目にすることが少ない女性バイカーらを紹介するためだ。

 他地域のフォトグラファーらに声を掛けてみると、皆大喜びした。素晴らしいプロジェクトで、私たちがいつも手掛けているものとは違っていた。

■モロッコ──「あらゆる種類の女性たち」

 モロッコでの撮影を担当したファデル・セナ(Fadel Senna)は、素晴らしいアイデアだと思うと言った。

 同国では、女性は身を隠し、従順という見方が大半だ。確かにそういう女性もいるが、そうではない女性もいる。このプロジェクトは、さまざまな女性がいるのだということを世に伝える絶好の機会になった。

 その上、バイクは自由の象徴だ。モロッコのような国でも、あらゆる女性が型通りに収まっているわけではないのだと示す意味でもふさわしい。

 

モロッコのカメリア・メンタクさん。(c)AFP/FADEL SENNA

 

 私は3人の女性を撮影した。1人はファッションデザイナーで、モトクロスバイクに乗っていた。2人目は警官。3人目は理学療法士で、愛車はハーレーダビッドソン(Harley-Davidson)だ。3人の家族はいずれもバイクに乗ることを認め、後押ししてくれているという。保守的な人は一人もいなかった。そうでなければバイクには乗っていないだろう。

 女性警官は、バイク隊員として公務に就けることがとてもうれしいと語った。当局の女性として公共の場でバイクに乗ることにより、モロッコ女性の解放、ひいては国の発展に貢献できるからだという。

 モトクロスバイクに乗っていた女性の夫はモトクロスのコーチであり、一緒に情熱を傾けていた。彼女は撮影にとても積極的だった。他の女性たちに、あらゆることが可能なのだと実証したいという思いを持っていた。

 

モロッコのマイ・ズニバさん。(c)AFP/FADEL SENNA

 

 この女性は常にコース内を走行しているため批判にさらされることはないが、ハーレーの女性はときに非難を受けるという。確かに撮影時にも感じられた。彼女を見た人は、衝撃を受けていた。理解できないか、強い好奇心を示したかのどちらかだった。マラケシュ(Marrakesh)にはスクーターに乗る女性は大勢いるが、普段あんな大型バイクに乗る女性は見掛けない。だから彼女は間違いなく注意を引く。男性にはじろじろ見られる。それは往々にして、好意的な目つきではない。

 彼女が言うには、大抵の場合人々は彼女を見てショックのあまり目が離せなくなるのだという。感心する人がいる反面、ただただ見つめ続ける人もいて、そういう人は間違いなく彼女の行為を快く思っていない。

■イラン──公道での走行禁止

 イランでは、バイクに乗るのは女性が自由にできることではない。同国での撮影を担当したアタ・ケナレ(Atta Kenare)によると、女性が公の場でバイクに乗るのは禁止されているという。

 私はベハーナーズ・シャフィエイ(Behnaz Shafiei)さん(27)に焦点を当てた。彼女は会計学の学位をもち、会計士として働いていたが、仕事を辞めてレースに集中することにした。家族が認めてくれたのは幸運だった。

 

イランのベハーナーズ・シャフィエイさん。(c)AFP/Atta Kenare

 

 シャフィエイさんを含め、女性がバイクに乗れるのは屋内かレース場だけだ。首都テヘラン(Tehran)のアサディ(Azadi)スポーツセンターで撮影を行った際、10人の女性が集まってくれた。同センターで女性がバイクに乗るのはこれが初めてだった。

 

イランのベハーナーズ・シャフィエイさん(左)とバイク連盟のメンバーたち。(c)AFP/ATTA KENARE

 

 シャフィエイさんは他の女性にもバイクに乗るよう勧めている。イラン女性の居場所は、家の中だけではないということを示すためだ。彼女をはじめ女性ライダーらは、バイク連盟に女性部門開設の働き掛けを行っているところだ。成功するのかどうか、注目していきたい。(c)AFP/Patrick Baz

パトリック・バズ(Patrick Baz)は、現在ベイルートに拠点を置いているAFPのカメラマンです。このコラムは、パリ(Paris)のヤナ・ドゥルギ(Yana Dlugy)とバズが共同執筆し、1月13日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。