【4月7日 AFP】事件の現場に居合わせた人は、一昔前ならその場から逃げることしか頭になかったはずだ。だが今は、自分のスマートフォンを取り出して何が起きているかを記録しようとする人が少なくない。ジャーナリストにとってみれば、これは天と地ほどの差を生み出す。

 先月22日、ベルギーの首都ブリュッセル(Brussels)の空港で爆発音がとどろいた数分後には、現場の写真が早くもソーシャルメディア上に投稿され始めた。通信ネットワークが快適に機能する都市で、しかも多様な国々から何千という人が集まる場所で発生した事件だっただけに、十分にうなずける話だ。

 最初に出回った動画の一つは、煙が充満した空港から逃げ出す人々の様子を捉えたもので、極めて深刻な事態が発生していることが一目瞭然になった。少したって、粉じんが舞う中血にまみれた犠牲者たちの写真が掲載された。1時間後に地下鉄のマルビーク(Maalbeek) 駅で2度目の攻撃が起きた時にも、ほぼ即座に写真や動画がインターネット上に広がり始めた。

 ジャーナリストは即座にあらゆる場所に行けるわけではない。ブリュッセル連続テロのような事件を目撃できれば、「ついていた」ということになる。だがここ数年、現場に居合わせた一般市民が撮影した写真や動画、いわゆる「ユーザー作成コンテンツ(UGC)」がニュース報道で重要な役割を果たし、事件の進展の様子を逐一追えるようになった。

 

ブリュッセルの空港で発生した爆発で負傷した女性たち。(c)AFP/Georgian Public Broadcaster/Ketevan Kardava

 

 一方で、ジャーナリストにとっては目が離せない場所が2つに増えたともいえる。実際の事件現場と、事件に巻き込まれた人々が写真や動画を次々とアップロードするバーチャルな世界だ。後者についてもしっかり後追いをしておく必要がある。

 この「後追い」の行為は、現場で犠牲者を撮影することと同様に、嫌悪感を催す人がいてもおかしくはない。しかし取材という意味では不可欠であり、AFPのような報道機関にとっては、プロのフォトグラファーやカメラマンの仕事を補完してくれるようになった。

■メディアを「引っ掛ける」

 ブリュッセルでの事件の発生時、AFP本社編集部に属するソーシャルネットワーク部には私を含めて4人が詰めていた。4Gネットワークの整備が進んでいるブリュッセルのような街では、30秒の動画を撮ってソーシャルメディアにアップロードするのに大した時間はかからない。しかも、事件は朝のラッシュアワーに起きたため、目撃者もたくさんいた。

 われわれが当初最優先していたのは、AFPの編集基準に適合する写真と動画を絞り込むことだった。犠牲者の尊厳を傷つけるものや、あまりに血なまぐさいものは排除した。最近では、無関係の事件の写真や動画をソーシャルネットワークに投稿して、メディアを引っ掛けようとするいたずらも横行しており、そのわなにかからないよう警戒する必要もある。ブリュッセルの事件の朝にも、2011年のロシア首都モスクワ(Moscow)襲撃事件の写真を当日のものと偽っていた画像を誤採用した例も見受けられた。

 

地下鉄マルビーク駅の外で、負傷者を搬送する救急隊。(c)AFP

 

 AFPでは気になる写真を見つけると、まず投稿したユーザーに連絡を取る。ただこれには慎重を期さなければならない。その人は大惨事を目の当たりにしたばかりであり、ショック状態に陥っている可能性もある。動揺している人をしつこく追い回したくはない一方で、そうした画像をツイッター(Twitter)などのソーシャルメディアに投稿している以上、自己の行為をはっきり自覚しており、できるだけ多くの人にその写真を見てもらいたいはずだという推量も成り立つ。

■豊富なユーザー作成コンテンツ

 その日連絡を取った人の大半が、画像の使用を了承してくれた。逆にAFPに連絡をくれ、素材を提供してくれた人もいた。

 この場合、なるべく速く動かなければならない。世界中の他のジャーナリストが、時に何の気配りもなく同じ人に連絡を取り、結果その人が誰からの問い合わせにも応じなくなってしまう恐れもある。まずわれわれが最初に尋ねるのは、その人が無事かどうかだ。それから、ネット上に掲載された画像の撮影主であることを確かめる(他人が撮影した画像を無断で投稿しているケースもあり得る)。AFPによる使用許可を求めるのはそれからだ。

 

爆発のあった地下鉄マルビーク駅から避難する通勤客たち。一般の人が撮影した動画より。(c)AFP/EurActive/Evan Lamos

 

 こうした手順を踏まずに、ネット上で見つけた画像を手当たり次第に公開するメディアも実在する。だが世界を代表する通信社を自負するAFPではそうはいかない。われわれが提供する写真は世界中で配信される可能性があり、著作権規定を徹底順守し、模範的な姿勢を示さなければならない。だからこそメールか、それが無理ならツイッター経由で使用許可を取るようにしている。

 写真が本物かどうかというチェックも怠らない。グーグル(Google)の画像検索機能を活用すれば、その画像が過去の出来事に関連したものでないか簡単に確認できる。ごく小さな疑念であっても完全に晴れなければ、絶対に使わない。

 ツイッターに投稿した写真について、AFPによる使用を認めたくないという人もいる。その場合、無理強いはしない。こちらからの問い合わせに対し、返信がない時も同様だ。何百人もいるわれわれの同僚から、似通った照会メールが殺到していることも考えられる。そのためAFPは、興味深い画像を少数に絞り込むようにしている。

 優れたユーザー作成コンテンツを発掘するには、ソーシャルネットワークの世界を熟知しておくことが不可欠だ。冒頭に掲載した写真は、米紙ニューヨーク・タイムズ(New York Times)や英誌エコノミスト(Economist)など世界中のメディアにこぞって採用された。

 現場を通りがかった人が撮影したその写真は午前11時5分、攻撃を受けた駅名のマルビークにハッシュタグを付けてをつけてツイッターに投稿された。11時13分、われわれは撮影した男性に連絡し、写真の使用許可を求めた。男性からは11時29分にツイッター経由で、さらに12時20分にはメールでも許可を出してくれた。男性のフォロワーはわずか50人ほどで、あれほど強烈な写真がたった2回しかリツイートされていなかった。ツイッターをくまなくモニタリングしていた努力のかいあって、巡り合えた1枚だった。

 ちなみに素材の提供料金はというと、見返りを求める人も皆無ではないが実際はまれで、ブリュッセル事件関連では一件の請求も受けなかった。(c)AFP/Remi Banet and Gregoire Lemarchand

このコラムは、フランス・パリ(Paris)のAFP本社ソーシャルネットワーク部のレミ・バネ(Remi Banet)記者とグレゴワール・ルマルシャン(Gregoire Lemarchand)記者が、ロラン・ドクルソン(Roland de Courson)記者と共同執筆、ヤナ・ドゥルギ(Yana Dlugy)記者が英訳し、2016年3月25日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。