【3月29日 AFP】1917年のロシア革命後に所有財産を国に没収されたロシア人美術品収集家の子孫が、オランダのポスト印象派画家ビンセント・ファン・ゴッホ(Vincent Van Gogh)の名画の所有権を主張して上訴していた裁判で、米連邦最高裁判所がこの上告を棄却した。名画は米国内にとどまる可能性がある。

 ゴッホが1888年9月にフランス南部の都市アルル(Arles)でキャンバスに描いた油絵「夜のカフェ(Night Cafe)」について、この収集家のひ孫にあたるフランス人のピエール・コノワロフ(Pierre Konowaloff)氏が所有権を主張するための最後の法的手段は、この判決によって終了する。

 2億ドル(約227億円)の価値があると推定されるこの油絵は、米コネティカット(Connecticut)州にあるエール大学(Yale University)のアートギャラリーに展示されている。

「夜のカフェ」は以前、ロシア人実業家で貴族のイワン・モロゾフ(Ivan Morozov)氏が所有していた。同氏は、19世紀末から20世紀初頭の巨匠画家らの作品の膨大なコレクションを築いた。

 ロシア革命後、共産党当局はモロゾフ氏のコレクションを没収。1933年に旧ソ連政府は、「夜のカフェ」をドイツ・ベルリン(Berlin)の画廊に売却した。

 その後、米ニューヨーク(New York)の画廊に持ち込まれた「夜のカフェ」は、米ミシン製造シンガー(Singer)の創業者の孫である米国人収集家のスティーブン・クラーク(Stephen Clark)氏に売却された。

 クラーク氏は、母校のエール大学に「夜のカフェ」を遺贈。1961年にクラーク氏が死去して以来、同大学に収蔵されていた。

 一方、モロゾフ氏のひ孫のコノワロフ氏は、自身が正当な相続人であると主張、2000年代初めより法廷闘争を繰り広げてきた。

 ニューヨーク州の控訴裁判所は昨年、主権を有する他国政府の行為およびその効力に関して、米国内の裁判所は審理をしないとする「国家行為の法理」を理由にコノワロフ氏の主張を退けた。

 同控訴裁はこのほかにも、仏印象派画家ポール・セザンヌ(Paul Cezanne)の絵画作品をめぐる米メトロポリタン美術館(Metropolitan Museum of Art)との法廷論争で、コノワロフ氏の所有権の主張を退ける判決を下している。(c)AFP