■命の値段

 新生児を売り渡した母親には、新生児1人につき3500~7000レバ(約22万~44万円)が支払われる。仲介業者の取り分に比べればわずかな額だが、それでもブルガリアの平均月給が400ユーロ(約5万円)であることを考えれば大金だ。

 ギリシャの法規制も問題を悪化させている。母親が公証人の面前でこの家族に自分の子どもを渡すという意思を表明しただけで養子縁組が成立してしまう。ただし、そこに金銭のやりとりが発生すれば違法となる。

 ブルガリアのイバン・キルコフ(Ivan Kirkov)検事によると、同国法の下で母親が罪に問われるのは単独で子どもの売買に関わった場合のみで、そういう事例はまれだという。事実、ブルガス州で過去5年間に乳児売買で有罪判決を受けたのは16人しかいない。

 人身売買がブルガリアで一大ビジネスとなっていることは公式統計からも見て取れる。欧州連合(EU)はブルガリアの司法制度の弱さとまん延する腐敗を繰り返し批判している。

 米国務省は2015年版の人身売買に関する報告書で、「ブルガリアは依然としてEUにおける人身売買の最大の供給源の一つとなっている」と指摘している。

 司法の機能不全を目の当たりにした幼稚園園長のマリア・イバノバ(Maria Ivanova)さんは非政府組織(NGO)のラブノベーシエ(Ravnovesie)と協力して、乳児売買禁止を訴える草の根運動に着手した。

 当初、園児の母親らと直接この問題について話し合おうとしたところ「敵意をむき出しにして」反発を受けたため、現在は地元の園児や児童向けの啓発活動を行い「きょうだいが売られることは異常なこと」だと教えている。

 ブレスレットやシールを配り、ロマ人の園児らの多くがそれを身に着けているという。そこには「わたしは売り物じゃない」というメッセージが記されている。(c)AFP/Vessela SERGUEVA