【2月19日 AFPBB News】神奈川県立相模原中央支援学校で、特別支援学級の生徒のために開発された電子楽器を使った授業が行われている。太鼓形の電子楽器「オープン・メッシュ・パッド(Open Mesh Pad)」は楽器デザイナーの中西宣人(Yoshihito Nakanishi)さんが同学校の教員、田代遊太(Yuta Tashiro)さんと共同で開発したもの。教員がキーボードを押すと太鼓内のランプが点灯し、そのタイミングにあわせて生徒が太鼓を叩くと音楽が演奏できる仕組みだ。

 2人は2014年から同楽器の開発に着手。当初はランプの点灯にあわせて太鼓を叩くという簡易なものだったが、生徒のレベルにあわせて音楽が演奏できるよう改良。スピーカーや無線通信機能を太鼓内に組み込むなど、特別学級の生徒の授業用途に添った機能性や操作性を盛り込んだ。最新型の「Open Mesh Pad」は昨年12月より、週に1度の音楽の授業に導入。2月初旬の授業では、生徒によるベートーベン(Beethoven)の交響曲「歓喜の歌」の演奏が行われた。

神奈川県相模原市で、障害に合わせて特別に開発された打楽器「オープン・メッシュ・パッド(Open Mesh Pad)」を使った授業を受ける相模原中央支援学校の生徒たち(2016年2月2日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi

 もともと田代さんは、楽器制作者である中西さんの大学時代の後輩。日本大学芸術学部音楽学科を卒業し、特別支援学級の生徒に音楽を指導するなかで、従来の楽器では、演奏中に体やスティックを止めて指導する必要があるため、子ども独自の音楽性を尊重しながら授業を行うことが難しいと痛感。そこで中西さんに、生徒にむけた楽器の開発を依頼。それは、だれもが音楽性を発揮できるよう、対象に合わせた楽器を制作したいという中西さんの想いと合致するものだった。

神奈川県相模原市で、障害に合わせて特別に開発された打楽器「オープン・メッシュ・パッド(Open Mesh Pad)」を使った授業を受ける相模原中央支援学校の生徒たち(2016年2月2日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi

 中西さんは学生時代から、「人」の多様性に焦点を当てた電子楽器やインタラクティブアートの制作に取り組んできた。幼少期からピアノを習っていたが、練習嫌いな子どもだった。高校時代より、譜面通りに演奏する音楽よりも、ジャズやボサノバといった即興音楽に興味を持つようになったが、そこでもセッションに参加するにはスタンダードとされる曲を習得する必要があった。そこで、経験や知識に左右されない、その人が生まれ持った感性を発揮できる音楽のあり方を模索。行き着いた先に、電子楽器があった。

神奈川県相模原市で、打楽器「オープン・メッシュ・パッド(Open Mesh Pad)」など独自に開発した楽器を設置するサウンドデザイナーの中西宣人さん(2016年2月2日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi

 中西さんはほかにも、インターフェース組み換え式の「パウダー・ボックス(Powder Box)」や無線通信型の「B.O.M.B.」など、センサーや無線通信を駆使した電子楽器を開発。触り方や傾け方、空間的な距離感、光の当て方などによってリズムや音が変わり、感覚的に音楽を演奏できるようになっている。

「音楽の才能は、みんなが生まれながらに持っているもの。なので、それぞれが考える音楽や、こうやって演奏したいという思いを、インターフェースや楽器に取り入れて提供できないかと考えている。これからも、人それぞれが持っている音楽の多様性を吸い込めるような電子楽器をデザインしていきたい」

神奈川県相模原市で、障害に合わせて特別に開発された打楽器「オープン・メッシュ・パッド(Open Mesh Pad)」を使った授業を受ける相模原中央支援学校の生徒たち(2016年2月2日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi

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