■直後に反発

 米国の「黒人歴史月間(Black History Month)」開始早々に発表された新曲は、通常物議を醸すことがめったにないビヨンセにとって、過去最大の政治路線への転換といえる。

 通常は番組制作側が慎重に当たり障りのない内容を取り上げるスーパーボウルでのパフォーマンスをめぐり、ビヨンセは今回、すぐに非難の集中砲火を浴びることとなった。

 7日のパフォーマンスの中で、ビヨンセと短い革製のジャンプスーツを着たダンサーらが拳を突き上げる振り付けがあったが、一部ではこれが黒人民族主義組織「ブラックパンサー党(Black Panther Party)」の敬礼と受け止められた。

 首都ワシントン(Washington D.C.)のホテルで会合を開いていた全米保安官協会(National Sheriffs' Association)の会員らは、ビヨンセのパフォーマンスを見るやテレビの音量を落として背を向けたと、交流サイト(SNS)のフェイスブック(Facebook)で明らかにしている。

 また、犯罪取り締まりへの強硬姿勢で知られた前ニューヨーク(New York)市長のルドルフ・ジュリアーニ(Rudy Giuliani)氏も、ビヨンセはアフリカ系米国人社会の内部で警官への敬意が醸成されることにこそ力を尽くすべきだと主張した。ジュリアーニ氏は「これはフットボールであって、ハリウッド(Hollywood)ではない。彼女やわれわれを守り、生かしてくれている人々である警官らを攻撃するために、彼女がこの舞台を利用したことは非常に悪意あることだと思う」と米FOXニュース(Fox News)に語った。

 その一方で、ビヨンセのパフォーマンスに元気づけられたネットユーザーもいる。「黒人の命は軽くない」運動を立ち上げた一人、オパル・トメティ(Opal Tometi)氏はツイッター(Twitter)で、今年のスーパーボウルが米テキサス(Texas)州の刑務所で不審死を遂げたアフリカ系女性、サンドラ・ブランド(Sandra Bland)さんの誕生日だったことに触れ、ビヨンセを賞賛するコメントを投稿した。

 たとえ非難を浴びても、ビヨンセはファン層の固さに自信を持っているだろう。スーパーボウルの後は、北米と欧州各地のスタジアムをまわる40日間のツアーが発表されている。(c)AFP/Shaun TANDON