■観衆の涙

 非常に力強い瞬間の一つは、ツホルカさんが赤ん坊を抱き上げるように、ファヒディさんの体を持ち上げるシーンで「ホロコーストと直接関係するものではないが、この場面で涙する観客は多い」とザボ監督は語った。

 公演のタイトルは、やせた貧しい土地でも育つ植物、シーラベンダー(イソマツ)にあやかった。ファヒディさんの厳しい人生を象徴するタイトルだ。

 昨年4月、ファヒディさんは再び、過去と対峙した。「アウシュビッツの簿記係(Bookkeeper of Auschwitz)」と呼ばれた元ナチス・ドイツ親衛隊(SS)隊員、オスカー・グレーニング(Oskar Groening)被告の裁判に原告の一人として出席したのだ。ユダヤ人30万人の殺害を幇助(ほうじょ)した罪でグレーニング被告に下された判決は禁錮4年だった。

 痛みが消えることはないが、人は痛みと一緒に生きていくことを学ぶ、とファヒディさんは言う。「アウシュビッツのことを考えずに過ごした日は、一日もない。けれど、憎しみはただ重荷となることに私は気づいた。起きたことは起きたこと。でも、私はまだ生きている。人生を楽しむ一人の幸福な人間として」

(c)AFP/Peter MURPHY