【1月18日 AFP】米フロリダ(Florida)南部エバーグレーズ(Everglades)では、ワニの口をこじ開け、80本の光る歯のすぐ近くまで危険なほど顔を近づける体格の良いアメリカ先住民の男性と「Adventures Await(冒険が君を待っている)」と書かれた看板をよく目にする。

 この男性の名前は、ロッキー・ジム・ジュニア(Rocky Jim, Jr. 、44)。先住民ミコスキー(Miccosukee)の一人で、31年間、ワニを相手にレスリングショーを行い、多くの観光客を楽しませてきた。

 だが、2015年最後の日曜日、100年の伝統を誇るワニ・レスリングの最後の後継者であるジムさんは引退を決意した。約600人いるミコスキーの中には今のところ、後継者はいない。

 同日午後1時のショーが始まると、ジムさんはワニの口先を軽くたたいて口を開かせ、片手を中に差し込んだ。ワニの口蓋部分に何かが触れてしまうと、たとえそれが汗一滴、砂一粒であっても、反射的に口を閉じてしまうため、非常に危険だ。

 手を少しひねりながら引き抜こうとした時、ジムさんはワニの歯にうっかり触れてしまった。その時の感触について、ジムさんは後にインタビューで、「ぱたんと閉まるドアに手が挟まれた感じ。ドアじゃなくて鋭い歯だったけどね」と語っている。

 手のひらと肘から手首までの部分がすっぽりとワニの顎の中に入っていた時、ジムさんの頭の中には「動かないでくれ」の一念しかなかった。「動けば、手がかみちぎられてしまう」。ワニには、新鮮な肉を引きちぎるため、手足を激しくばたつかせる習性がある。

 幸運にも、ワニは暴れなかった。仲間の若手レスラー、ファラオ・ゲールズ(Pharaoh Gayles)さんが顎を開けるのを手伝ってくれたが、ジムさんは7か所に傷を負うはめに。そしてこれを機に、ジムさんは引退を決めた。