【12月25日 AFP】英ロンドン(London)の歴史ある食肉市場スミスフィールド・マーケット(Smithfield Market)で24日、クリスマスイブ恒例の肉の競り売りが開催された。屋外の競り売り会場には雨天をものともせず数百人が詰めかけ、紙幣が宙を舞った――だが、伝統的なこの光景も、今年が見納めとなるかもしれない。

 食肉店ハーツ・オブ・スミスフィールド(Harts of Smithfield)の外では、白衣を着た店員たちが2本の通路を忙しく行き来しては、七面鳥や牛ブロック肉、豚すね肉を、スーツケースやカート持参で待ち受ける客たちに売りさばいていた。

 約2時間の競り売りに集まった人々の顔ぶれは、流行の黒縁メガネをかけた今どきの若者から、ツイードのハンチング帽をかぶった労働者風の男性、さらにはロンドン史の一端を垣間見ようとカメラ片手に訪れた観光客まで、多彩だ。

 スミスフィールド・マーケットの歴史は、中世の青空家畜市場にさかのぼる。19世紀に衛生規則が厳格化されて屋根が設けられた。クリスマスイブの競り売りはこの50年間ずっと、1881年に建てられた総合市場の色あせた看板の前で行われてきた。

■博物館への改築計画が浮上

 食肉市場と隣り合うビクトリア式建築の総合市場は、再開発の対象とされたものの計画が相次ぎ頓挫し、大部分が数年前から放置されている。しかし、今週初めにロンドン市自治体(City of London Corporation)への売却が決まり、改築後にロンドン博物館(Museum of London)が移転してくる見通しとなった。

「間違いなく、象徴的な建物です」。5年前からイブの競り売りに通っているというアニー・マロニー(Annie Maloney)さん(62)は、燻製ハムや七面鳥、ランプ肉や豚肉を山積みにしたショッピングカートを押しながら、憤りを口にした。「業者さんたちも素晴らしいのに。つぶしてしまうなんて、とんでもない犯罪行為ですよ。まったく腹が立つ」

イブの競り人を務め、スミスフィールドで49年間働いてきた同マーケット食肉業者協会のグレッグ・ローレンス(Greg Lawrence)会長(66)も「個人の意見だが、ロンドン博物館への改築計画は気に入らない」とAFPに語った。「ここは活気ある生きたコミュニティーなんだ。博物館なんかいらないよ!」

 ローレンス会長は来年も同じ場所で競り売りをしたいと望んでいる。もし不可能ならば、競り売り会場は市場内のより近代的な建物に移転しなければならないが、そのとき、ロンドンの歴史の一部は永遠に失われてしまうかもしれない。(c)AFP/Dario THUBURN