【11月20日 AFP】イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が安全な通信のために利用を推奨している暗号化インスタントメッセージ・アプリの大手各社が、フランス・パリ(Paris)での同時テロを受けて、過激派による利用を防止するための修正を始めた。だが一方で各社は暗号化技術のもたらすプライバシーの権利を擁護している。

 暗号化通信企業サイレントサークル(Silent Circle)は、同社の携帯端末用アプリとスマートフォン(多機能携帯電話)へのアクセスを制限し、テロリストや犯罪者による利用を以前より困難にする方針を示した。また、ロシアIT界の重鎮、パーベル・ドゥロフ(Pavel Durov)氏が創設したインスタントメッセージ・アプリ「テレグラム(Telegram)」は、ISの広報活動に利用されたとされる関連アカウント数十件を閉鎖したと発表した。

 テレグラムは2013年にサービスを開始した無料アプリ。このアプリの公式ウェブサイトは、米交流サイト(SNS)大手フェイスブック(Facebook)や米インターネット検索大手グーグル(Google)が第三者に個人情報を渡していることを強く非難し、テレグラムは「安全な通信手段を地球上のどこでも提供する」と述べている。テレグラムは暗号化されたチャットと自然に消えるメッセージを備えているが、最近になって、不特定多数に向けて配信するための公開チャンネルのサービスも開始した。

 中東報道研究機関(MEMRI)によると、こうした暗号化されたアプリなどの通信技術はイスラム過激派の間で人気が高まっており、ISと国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)のグループが複数のチャンネルを立ち上げている。テレグラムは、通報に基づきこの1週間だけでIS関連のチャンネル78件を閉鎖したとしている。だが一方でテレグラムのドゥロフ氏は、同アプリの通信内容を傍受することは不可能と述べ、「公開チャンネルだけが通報対象で閉鎖が可能」なことを強調した。

 通信の暗号化は、米国家安全保障局(NSA)のエドワード・スノーデン(Edward Snowden)元職員が米当局による大規模な情報収集を内部告発した後に急増した。だがパリ同時テロを受け、各国当局は暗号化技術の規制に着手するとみられており、暗号化アプリが従来の方針を維持するのは困難になる可能性が高い。すでに米中央情報局(CIA)のジョン・ブレナン(John Brennan)長官ら各国の情報機関トップが、解読不可能なメッセージ・アプリへの警鐘を鳴らしている。

 だが、ISが安全な通信チャンネルとして支持者らに推奨してきた暗号化メッセージ・アプリの一つ、スイスの「Threema」は、「全面的な監視」が成功したことは過去に一度もないと述べ、その状況への復帰を容認することに対する警告を発した。Threemaの広報担当者は「西側の民主主義の根幹である自由とプライバシー、そして言論の自由を、間違った安全感を得るために犠牲にすることは、賢明な行為ではないだろう」と述べた。(c)AFP/Maria ANTONOVA