【11月16日 AFP】降り注ぐ冷たい雨から火をともしたろうそくを守ろうと、シリア難民のハレドさん(22)はそっと手で覆った。ベルリン(Berlin)のフランス大使館前にやって来たのは、仏パリ(Paris)で起きた連続襲撃事件の犠牲者たちに哀悼の意を表するためだ。

「僕たちは今、彼らと共にある。この危機に面している彼らの助けになりたい。今、彼らの身に起きていることは、シリアでは毎日起きている。毎日100回くらい、この5年間ずっとだ。だからそれがどんなものか、僕たちには分かる」

 ハレドさんは数万人の同胞と同様、命を危険にさらしてゴムボートで地中海(Mediterranean)を渡った後、17日間歩き続けた末、5か月前にドイツに到着した。大学の歯学部にいつか復帰するために役立つことを期待してドイツ語の勉強を始め、人生の立て直しに前向きになり始めていた矢先の13日、仏パリで129人が犠牲となる襲撃事件が発生した。

 欧州では、難民に対する反発が起きるのではないかという不安が広がっている。とりわけ仏警察が実行犯の1人の遺体の近くからシリア国籍の旅券(パスポート)を発見したことによって、一部の実行犯が、シリア内戦を逃れて押し寄せた大勢の難民に紛れて欧州入りしたのではないかという懸念が沸き起こっている。

 ハレドさんは「これは問題だ」といい、同胞をやり玉に挙げないでほしいと訴える。実行犯たちは「シリア人ではない」し、パスポートとの関連付けは単なるでっち上げだという。「これは大きなうそだと思う。なぜなら、現場一帯が破壊されたのに、パスポートだけが無事だなんて、ばかげている、本当にばかげている」。ハレドさんは、パスポートが偽造されたものか、そこに置かれたものだった可能性を指摘する。「なぜなら彼らは難民が嫌いだからだ。多くの人々がシリア人を嫌っている」

 ドイツでは亡命希望者の数が今年100万人を超える見込みで、パリの事件が起きる前からすでに移民たちの流入に関する論争が巻き起こっていた。内相のトーマス・デメジエール(Thomas de Maiziere)氏はパリ襲撃から一夜明けた緊急閣議で直ちに、テロリストと移民を関連付けるあらゆる試みに異議を唱えた。同内相は、当局が極右過激派を注意深く監視していると述べ、15日には移民保護施設の警備体制を強化することを確認した。

 欧州にいる亡命希望者同士のソーシャルメディア上でも、「爆弾が雨のように降ってくる」という不安が表明されている。交流サイト(SNS)のフェイスブック(Facebook)では、あるユーザーが「パリで昨夜起こった襲撃事件は、難民としての私たちの生活に影響するだろうか?」と尋ねると、別のユーザーが「もちろん」と答えた。

 しかし、いまだ旅の途上にいて、欧州連合(EU)圏内に必死に入ろうとしている人たちが、その歩みを止めることはない。彼らは自分の家に毎日降り注ぐ爆弾の雨に比べれば、欧州人から向けられるかもしれないどんな憎悪でさえもましではないかと語る。

 妻と3人の子どもと一緒に移動を続けるマレク・ロズダンさんは「私たちがやって来たダマスカス(Damascus、シリアの首都)の状況は最近、本当に、本当にひどい。雨が降るみたいに爆弾が降ってくる」という。「今回の事件だってもちろんひどいが、欧州は住むのに良い場所だ。だから(パリの連続襲撃事件に)私たちの旅が影響されるということはない」と語った。(c)AFP/Hui Min NEO with Jasmina MIRONSKI in Gevgelija, Macedonia and Serene ASSIR in Paris