【11月13日 AFP】20世紀初頭に活躍したロシアの前衛画家カジミール・マレーヴィチ(Kazimir Malevich)の代表作「黒の正方形(Black Square)」の下に、先に描かれた2種類の絵画を発見したと同国の美術専門家らが発表した。同時に手書きの題辞も発見され、この作品の意味を探る手掛かりになるかもしれないという。

 既成の美術様式を打破した油彩画「黒の正方形」の3枚ある中の1枚を所蔵する露モスクワ(Moscow)のトレチャコフ美術館(Tretyakov Gallery)は、今年制作100周年を迎える同作品にX線を用いた調査を実施。表面を覆っている黒の絵の具の下に2種類のキュビズム絵画が描かれていたことを発見した。

 同美術館の美術研究家、エカテリーナ・ボロニーナ(Yekaterina Voronina)氏は、露国営テレビ・クリトゥーラ(Kultura)に対し「この『黒の正方形』の下に何らかの絵があることは知られていた。今回の調査でそれが一つではなく、二つの絵であることが分かった」と語った。

「(キャンバスに)最初に描かれた絵はクボ・フトゥリズム(立体未来主義)的な構図のもので、一方、『黒の正方形』のすぐ下に描かれた、表面のひびから色彩が見えている絵は、シュプレマティスム(絶対主義)の原型的な構図のものだと判明した」と同氏はいう。

 また黒い正方形を囲む白い縁の部分には、マレーヴィチが手書きで記した題辞が発見された。解読はまだ完了していないが「洞窟内でけんかしている黒人たち」と記されているようだ。

 クリトゥーラTVの報道によると、この題辞は、マレーヴィチの「黒い正方形」よりも前の1897年にフランス人のコント作家、アルフォンス・アレー(Alphonse Allais)が黒い四角形を描いた絵画「夜に地下室でけんかしている黒人たち」をもじった題だと思われるという。この説が正しければ、マレーヴィチの作品はアレーの四角形に呼応して生まれたことになり、「黒の正方形」の制作過程に新たな光が当たるだろう。

 初期のマレーヴィチは、1910年代のロシアで展開された前衛芸術運動「ロシア・アバンギャルド」の中でも、キュビズムと未来派の様式を組み合わせたクボ・フトゥリズムを信奉していたが、その後、具象画の概念を拒絶し、単純な幾何学図形をよるシュプレマティスム芸術の概念に行き着いた。「黒の正方形」はその概念を体現した作品だ。

 トレチャコフ美術館に展示されている「黒の正方形」は初めに描かれたもので、1915年の作品。マレーヴィチは後に同じ題名で、別の2種類の絵画を制作している。ロシアではこの作品は「黒い絶対主義の四角」として知られている。(c)AFP