【11月8日 AFP】亜北極に位置するカナダのユミジャック(Umiujaq)村では、冬になると凍った川や湖の氷に穴を開けて「穴釣り」をする。以前はそれが可能な時期は長く釣果も豊富だった。しかし数十年前からの気候変動の影響に、先住民イヌイット(Inuit)の生活の一部であり、生きるために重要な伝統の一つが犠牲を強いられようとしている。

 住民の一人はAFPの取材に対し、「穴釣りは大好き。でも(その時期は)数週間で終わってしまう」と嘆いた。薄い氷の上では、「すぐに怖くなってしまう」と話し、昔は冬が到来するのは10~11月だったが、「今は遅くなった」と述べた。

 ユミジャックは、カナダ東部ハドソン湾(Hudson Bay)沿岸のへき地にある村で、地球上の他の場所と比べ、温暖化が2倍の速さで進んでいる地域の一部にある。

■急激な変化

 動植物の生態から水の循環、積雪まで、何もかもが変わりつつある。植生分布はゆっくりではあるが確実に北に移動している。ユミジャック付近では、コケや地衣類の代わりに背の低いトウヒの木が生えるようになり、以前はいなかったカナディアンエルクやウッドチャック、ヒキガエルなどが生息するようになっている。

 また、この地域では初めてとなる熱波にも見舞われた。年配の住民たちは、以前は天気を言い当てることができたが、今では予測がつかなくなってしまったという。

 雪を表す単語を20以上持つイヌイットにとって、さらに深刻なのは、昔と比べて約2か月短くなった冬だ。氷は、張り始める時期が遅くなったばかりでなく、以前より薄く、割れやすくなった。

 地元議員によると、最近、スノーモービルに乗って狩りをしている途中に氷が割れ、行方不明になった人もいるという。

 氷の減少の犠牲になっているのは人間だけではない。イヌイットが狩猟を行うアザラシを見つけるのも困難になっているという。また科学者らによると、湾内でシャチが増えていることにより、ある特定の種のクジラの生息数が脅かされているという。

 ある教師は「子どもの頃、祖母がいつか雪がなくなるだろうと言っていた。当時は信じていなかったが、そういった予言のいくつかはすでに現実のものとなっている。いつか本当に雪が降らなくなるのかもしれない…いつかはそうなると思う」と語った。

 また地元議員も、地球温暖化を阻止するために「世界が手をこまぬいていることに少々腹が立っている」「われわれが変わらなければならないのならそうする。ただあまりに急すぎる…」と話した。(c)AFP/Catherine HOURS