【11月3日 AFP】エジプト・シナイ半島(Sinai Peninsula)で起き、乗客乗員224人全員が死亡したロシア旅客機の墜落では、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を出し、その主張の根拠となる証拠がないにもかかわらず、世間の注目を集めた。専門家らは、ISがこの犯行声明によって墜落原因への疑念を生むことに成功したと指摘している。

 シナイ半島では、ISの傘下組織が反政府活動を行っているが、専門家らは、3万フィート(約9000メートル)の巡航高度で飛行していたと仮定した場合、同機が撃ち落とされた可能性はないとしている。だとすれば、残る可能性は2つ。機体の空中分解につながるような技術的欠陥があった可能性と、機内に密かに持ち込まれた爆弾が爆発した可能性だ。

 墜落したチャーター便を運航していたロシアの航空会社コガリムアビア(Kogalymavia)は2日、同機は「外部的な」要因で墜落したとの見解を発表し、墜落原因が爆弾であった可能性を高めた。

 英大学ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のファワズ・ゲルゲス(Fawaz Gerges)教授は、「エジプトのIS傘下組織は、同旅客機に何が起きたかについてのナラティブ(物語)を形成することに成功した」と語る。

「これが、ISにとって重要なのだ。自分たちの敵、とりわけロシアに復讐できるほどの力を持っていることを支持基盤に信じさせるに当たって、自分たちの能力や無敵さを示すことだ」

 エジプトで活動するISの傘下組織「シナイ州(Sinai Province)」は、シリアのIS戦闘員らに対するロシアの空爆への報復として同機を墜落させたと主張している。

 専門家らは、墜落原因の特定に時間がかかればかかるほど、ISのプロパガンダに利することになると指摘する。

 英ロンドン(London)のシンクタンク「王立統合防衛安全保障研究所(RUSI)」のアラブ問題専門家、H・A・ヘルヤー(H.A. Hellyer)氏は、「人々の物の見方という側面から言えば、しばらくの間、世間の議論を支配することに成功したISの一時的勝利であることは間違いない」と語っている。

 墜落の原因が何であれ、最大の打撃を受けるのは、観光に大きく依存するエジプト経済かもしれない。墜落機の出発地だった観光地シャルムエルシェイク(Sharm el-Sheikh)は、美しい海岸やスキューバダイビングなどで知られ、ロシア人を含む多くの観光客が訪れている。(c)AFP/Jay Deshmukh