【10月14日 AFP】「メルセデス・ベンツ ファッション・ウィーク 東京(Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO)」2日目となる13日、ランウエーに登場した鶴田能史(Takafumi Tsuruta)さんのコレクションはすべての人、特にファッション界が忘れがちな人々にもアピールするものだった。

 ショーでは、さまざまな人生を送る人々がモデルとして起用された。また今回のコレクションでは、核兵器を示唆するモチーフがふんだんに盛り込まれた。

 第2次世界大戦末期に広島に投下された原子爆弾「リトルボーイ(Little Boy)に扮(ふん)してランウエーに登場したのは、発達障害によって13歳で発育が止まったというダンサー。想真(Soma)さんとだけ名乗ったモデルは「落とした人じゃなくて、爆発したやつ」とAFPに語った。数歩後ろからは、別のモデルが歩いてくる。彼は広島の3日後、長崎に落とされた原爆「ファットマン(Fat Man)」だ。

「テーマは1945年」。16年春夏コレクションについて、鶴田さんはAFPにこう答えた。「難しいテーマ、メッセージ性のあるものをファッションというフィルターを通せば世の中、世界中に響くのではないかというのがひとつの狙いです」

 しかし、今回掲げた大きなテーマの背景にあるのは、現実的な、そして称賛に値する目標だ。それは、ファッション界のメインストリームでは、あまり注目されることのない人々をモデルとして起用し、現実の社会をより反映した服を創造するというものだ。

 鶴田さんのブランド「テンボ(tenbo)」のモデルの1人は、車いすのコメディアン、寺田湧将(Yusei Terada)さん。彼は、ひざのあたりにポケットが一つ付いた、車いす利用者のためのパンツを着こなした。次々に登場したモデルは、トランスジェンダー(性別越境者)の浜松幸(Ko Hamamatsu)さん、軟骨無形成症で身長が1.15メートルの後藤仁美(Hitomi Goto)さん。

 視覚障害のあるアコーディオン奏者、新居草太(Sota Nii)さん(31)は、チェックのワイドパンツ、マスキュリンな黒のジャケットにクラシカルなフェルト帽をかぶっていた。「(自分で)見ることはできない。でも、ファッションとか髪型とか洋服は、自分自身で楽しむというより誰かと楽しむことが大きいのかなと思う」と話した。

 鶴田さんは「いろんな個性があって当たり前だと思う。当たりまえのような世界が自分のファッションショーでは理想郷。今の世の中がついていけていない現状をファッションという世界で表現したかった」と語った。

 筋ジストロフィーのシンガー、小澤綾子(Ayako Ozawa)さん(32)は、花で飾られた杖を手にランウエーに姿を見せた。「ステージに立つときにはなるべくかわいい服を着る。自分の気分もすごく上がるし、見てくれる人も、障害があってもおしゃれができるんだと思ってくれる人もいる」

 フランス人のアレクサンドリン・モーリス(Alexandrine Maurice)さん(25)も車いすで参加した。鶴田さんの平等のメッセージと「ファッションというこのタフなビジネスの中で、そのメッセージを発信する意志」を支持しているという。(c)AFP/Harumi OZAWA