【10月23日 AFP】北極砕氷観測船アムンゼン(CCGS Amundsen)には世界中から集まった24人の科学者たちが乗り込んでおり、「バベルの塔」さながらだが、仲間意識はこの赤い大型船の隅々まで浸透している。

 誰もがとても魅力的で付き合いやすい。カナダの沿岸警備隊は武装しておらず(ホッキョクグマを退散させるための小銃を除く)、海軍や警察のような責任を負っていないが(これは海軍に一任されている)、船上の活動は軍隊並みに確実かつ手際良く行われ、人々の絆も確実に強まっている。

科学者らが氷上で活動する間、ホッキョクグマを見張る乗員。(c)AFP/Clement Sabourin

 安全は最優先事項だ。初めて乗船する際には、誰かが船外に転落した場合にどのレバーを引いて警報を鳴らすか、エンジン室で火災が発生した場合に消火器をどのように使うかなどの説明を受ける。各ベッドの頭上には、船を脱出する場合に使用する救命ボートの最も近い保管場所が示されている。

 食事の時間も肝心だ。1日は午前7時半、乗員の食堂や士官の食事室での朝食で始まる。今日のメニューはベーコンエッグとハッシュポテト、パンケーキ、チーズ、クロワッサンだった。昼食は正午、夕食は午後5時と決まっている。また、毎週日曜には海上の単調な生活に小休止を入れるため、船長主催の特別夕食会が開かれる。同じ生活リズムを保つことで、下船してから日常に復帰できるようになる。

氷上で計測を行う科学者ら。(c)AFP/Clement Sabourin

 船上の勤務時間は1日12時間とされ、友人や家族と4~6週間離れて生活するのが一般的だ。その後交代要員が乗船して新たなローテーションが始まり、航海が続く。

 今回のミッションには「Bクルー」が乗船し、乗員と科学者の双方が厚い信頼を寄せる熟練のアラン・ラセルト(Alain Lacerte)船長が率いている。船長は船首を見下ろす操舵室にいることが多く、そこでは操舵手や一等航海士らが針路変更を行っている。そばにあるテーブルには、1950年代の電話から最新の衛星電話まであらゆる通信機器がずらりと並んでいる。彼らは海図や衛星写真、羅針儀などを駆使して、北極海の安全な航行コースを決めていく。大半は未知のコースだ。

氷上に科学者らを運ぶヘリコプター。(c)AFP/Clement Sabourin

 ミッションのリーダーであるロジャー・フランソワ(Roger Francois)氏と士官ら以外は相部屋となっており、船室には二段ベッドとテレビ、机、洗面台がある(シャワーは共有)。科学者の一部は乗船期間が3か月に及んでおり、社交的でなければこれほど長くプライバシーのない状態に耐えられないだろう。長期にわたって睡眠をろくに取らず、未明まで研究に取り組んでいる科学者は多い。

 今回船室を共有したプレストン・パングン(Preston Pangun)氏は、カナダのクグルクトゥク(Kugluktuk)出身の先住民イヌイットのハンターで、北極圏のパトロールを担う予備役。野生動物を観察し、海氷に生物の痕跡がないか双眼鏡をのぞき込んみ、目撃した日時や場所をノートに書き込んでいることが多かった。波が高い海域にいるアザラシを遠くから発見したり、頭上を飛んでいく鳥の名前を全て挙げたり、近くの海氷に残っているホッキョクグマの足跡を直ちに見つけたりする実力を持っていた。3人の子どもの父親である彼は、天候状態が許せば週末に任務を終える予定。家族との再会を楽しみにしており、雪が降る前にスノーモービルを修理したいという。

(c)AFP/Clement Sabourin

 海に浮かぶこの研究室で、無駄に過ごす時間はほとんどない。ただ、アムンゼンが重要な観測地点間を移動する間は、束の間の休息だ。科学者らは船室で映画鑑賞(暗いフィクションが好まれている)や衛星放送のラグビー観戦、編み物、運動、読書をしながら時間をつぶす。博士論文の執筆に取り組む科学者もいる。

 そして休息が終われば、気候変動の危機から人類を救う任務に戻るのだ。(c)AFP/Clement Sabourin

氷上を横切るホッキョクグマ。(c)AFP/Clement Sabourin

この記事は、AFPカナダ・モントリオール支局のクレモン・サブーラン記者が執筆し、英語に翻訳されて10月2日に配信されたコラムを、日本語へ翻訳したものです。