【9月4日 AFP】ここは米ネバダ（Nevada）州ラスベガス（Las Vegas）。グレースランド・ウエディングチャペル（Graceland Wedding Chapel）では、祭壇へと歩くカップルに黒いジャンプスーツを着たエルビス・プレスリー（Elvis Presley）のそっくりさんが甘い声で歌いかける。2人は夫婦となったと牧師が宣言し、結婚式は終了。正味10分のラスベガス式ウエディングだ。

 だが、この街のウエディングビジネスに、かつての隆盛はみられない。

■手軽な挙式手続きが人気

 罪の街「シンシティー（Sin City）」と呼ばれたラスベガスといえば、夜通し楽しめるギャンブルや派手やかなショーが有名だ。加えて、手軽で安価な挙式が世界のカップルをこの街に引き寄せてきた。ここでの結婚式は俗っぽいものほど、より好まれる。

 ネバダ州クラーク（Clark）郡の結婚申請窓口は連日、真夜中まで開いていて祝日も結婚許可証を発行してくれる。結婚費用は数百ドル（約3万～5万円）程度だ。

 しかし、ラスベガスの簡略化された結婚手続きの恩恵にあずかろうというカップルが、最近では減少している。2004年には12万8000人が挙式しているが、昨年は8万1000人と10年間で37％も減っている。

「ここラスベガスでのウエディングビジネスは、2004年から下降線をたどっている」と、グレースランド・ウエディングチャペルの牧師ジャンクロード・シェバルメ（Jean-Claude Chevalme）氏は言う。「経済が良くないから、みんなの懐具合も、もう以前のように良くはない」

 いまだに半世紀以上も前のウエディングスタイルを売りにしている点も、低迷の一因かもしれない。

■セレブ結婚の聖地が…

 ラスベガスでは多くのハリウッドスターたちが「永遠の愛」を誓ってきた。1950年代にはポール・ニューマン（Paul Newman）とジョアン・ウッドワード（Joanne Woodward）、60年代にはフランク・シナトラ（Frank Sinatra）とミア・ファロー（Mia Farrow）、80年代にはデミ・ムーア（Demi Moore）とブルース・ウィリス（Bruce Willis）、90年代にはリチャード・ギア（Richard Gere）とシンディ・クロフォード（Cindy Crawford）がラスベガスで挙式している。

 こうしたセレブたちの結婚で高まったベガスのウエディング人気も時とともに衰退。最近では地味で衝動的で多くは破局に至る結婚式とみなされている。

 バスケットボール選手のデニス・ロッドマン（Dennis Rodman）とモデルのカルメン・エレクトラ（Carmen Electra）は、ラスベガスで結婚してから、わずか9日後に婚姻関係を解消。歌手ブリトニー・スピアーズ（Britney Spears）と幼なじみのジェイソン・アレクサンダー（Jason Alexander）さんの場合は、ベガスでの挙式から55時間後に別れている。まさに「ベガスの恥はかき捨て」だ。

■同性婚や新世代に期待

 低迷しているとはいえ、結婚式を挙げるカップルにとってラスベガスが米国で一番人気の都市であることに変わりはない。さらに同性婚の合法化で、ゲイカップルの挙式が新たなビジネスとして見込めそうだ。

 ラスベガスにとって結婚式が40％近くも減少したことによる損失は推定で年10億ドル（約1200億円）に上る。そこで、かつての栄光を取り戻すべくベガスが動き出した。新世代カップルをターゲットにした広報活動を開始。特に海外から若いカップルが訪れてくれることを期待している。

 ラスベガスで挙式したばかりというノルウェー人女性は「みんな羽目をはずして大はしゃぎ。何もかもすごく大きいし、ノルウェーとは大違いよ」と語った。

 新婚ほやほやの英国人カップル、ロブ・ジョンストンさんも新婦のクレアさんともども、エルビスがテーマの結婚式を大変気に入ったという。「とても楽しかった。素晴らしい経験になったよ。これから（ラスベガスの）『エッフェル塔』でディナーなんだ。これ以上、何を望めと言うんだい？」(c)AFP/Sebastien Vuagnat