■「岸まで泳ごうとした」

 アブドラさんによると、深夜乗り込んだボートは岸から500メートルほど離れたところで浸水し始め、乗っていた移民らはパニックに陥った。転覆したボートにしがみつきながら、子どもたちと妻を離すまいとしていたが、家族はたちまち流されていってしまったという。

「光を頼りに、岸まで泳いで渡ろうと思った。渡り切った時には、妻と子どもたちを見つけることができなかった。3人は怖くなり逃げているのだと思った」「(ボドルム)市内でいつもの待ち合わせ場所に行ったが、3人が見つからなかったので病院へ行ってみた。そこで訃報を聞いた」

 アブドラさんは、一家でカナダを目指していたと語ったが、今はただ家族を埋葬するためコバニに帰りたいと話している。

 コバニのクルド人活動家、ムステファ・エブディ(Mustefa Ebdi)氏によると、一家は2012年までシリアの首都ダマスカス(Damascus)で暮らしていたが、内戦による情勢不安のため、複数回にわたり避難を強いられた。避難を繰り返すうち、6月にはコバニでイスラム過激派が人質を取って2日間にわたり籠城し200人以上の民間人が死亡する事態となったことを受け、一家はトルコから欧州へと渡ることを決意した。

 一家はボドルムに1か月滞在し、資金を蓄えたり、親族から借り受けたりして、欧州入りの準備をしていた。「彼らはよりよい生活を求めて(シリアを)去った」(エブディ氏)