■「胸躍る進歩」

 次段階では、マウスとフェレットにワクチンを接種し、その後、強毒性のH5N1型「鳥インフルエンザ」ウイルスを注射した。H5N1型は、人間の致死率が5割を超えるが、伝染性はそれほど高くない。

 実験の結果、マウスはH5N1型インフルエンザから完全に保護されたことが分かった。また、インフルエンザワクチンの人間での有効性を予測するのに最適とされる動物種のフェレットの大半も発病しなかった。

 さらに、1回目の実験で生存したマウスから採取した抗体を新しいマウス群に注射したところ、このマウス群の大半でも発病はみられなかった。マウス群には、致死量となるはずの鳥インフルエンザウイルスが注射された。

 オランダのクルセル・ワクチン研究所(Crucell Vaccine Institute)のアントニエッタ・インパグリアッツォ(Antonietta Impagliazzo)氏が率いたもう1件の研究でも、HAの「茎部だけ」のワクチンを作製する同様のアプローチが採用された。

 ワクチンはマウスで有効性を示したほか、サルでも、高水準の抗体を誘発させ、H1N1型ウイルス感染後の発熱を大幅に緩和した。H1N1型は、鳥インフルより致死率がはるかに低いが、伝染性は非常に高い。

 今回の研究に参加していない他の科学者らは、万能ワクチンへの重大な一歩と研究成果を評価する一方で、臨床試験にたどり着くまでには、おそらく長年にわたって多大な研究を積み重ねる必要があるとの見解を示している。

 英オックスフォード大学(University of Oxford)のサラ・ギルバート(Sara Gilbert)氏は「これは胸躍る進歩だが、今回の最新ワクチンが、人間でどのくらい有効に機能するかを調べるための臨床実験が必要」と述べ、その段階に到達するにはあと数年かかると続けた。

 NIHの米国立アレルギー感染症研究所(National Institute of Allergy and Infectious DiseasesNIAID)のシニアアドバイザー、デービッド・モレンズ(David Morens)氏は、ネイチャー・メディスン誌に掲載された研究について「これは、このワクチンのアプローチに関する重要な概念実証だ」としながら、「この種の免疫を誘発できれば、ワクチンを接種した人は理論上、鳥や哺乳類などの保菌動物からまだ出現していないものを含む全てのインフルエンザウイルスから保護される可能性がある」と説明した。(c)AFP/Marlowe HOOD