【8月24日 AFP】23日に行われた第15回世界陸上北京大会(15th IAAF World Championships in Athletics Beijing)男子100メートル決勝で、ウサイン・ボルト(Usain Bolt、ジャマイカ)がドーピング違反で2度の出場停止処分を受けたジャスティン・ガトリン(Justin Gatlin、米国)に勝利したことで、陸上競技の信頼性は保たれる形となり、事態は沈静化した。

 国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ(Thomas Bach)会長は、僅差でウイニングランを成し遂げ、スーパーヒーローのマントのようにジャマイカ国旗を肩に羽織いながら踊ってポーズをとったボルトに対し、レース直後に祝福を送っている。

「ウサイン・ボルトの歴史的勝利を祝福する。鳥の巣(Bird's Nest)で再び彼が優勝する姿を見るのは素晴らしいこと」

 ドーピング違反者の永久追放を支持するバッハ会長が、ガトリンが世界最速の男というボルトの時代に終止符を打って大きな論争を巻き起こすことなく終わり、大喜びしていることは想像に難くない。

 陸上競技界で最も薬物検査を受けた選手の一人であるボルトは、「僕の目標は史上最高の選手になることであり、支配し続けることだ。喜んでいる時間はないよ」と語っている。

 ボルトは僅差でガトリンを下した。ボルトは決勝で9秒79を記録し、ガトリンとの差はわずか0.01秒だったが、信頼性の危機にある陸上界を後押しするには最高の差となった。

 ボルトの勝利は、ドーピング問題で厳しい批判の矢面に立たされ、ガトリンが100メートルで優勝する可能性を恐れていた陸上界の上層部に温かく歓迎されているだろう。

 公約にいかなるドーピング違反も許さないと掲げ、国際陸上競技連盟(IAAF)の新会長に選出されたセバスチャン・コー(Sebastian Coe)氏は、ガトリンが勝利すれば「吐き気」を覚えるだろうとコメントしていた。

 現在33歳のガトリンは、2006年に2度目の薬物違反で8年間の出場停止処分を受けたが、その後ドーピング調査に協力することを条件に、処分が半分の4年に軽減された。

■正義と悪の構図

 ボルトの0.01秒差の勝利が象徴的な意義を持つ一方、ガトリンの代理人を務めるレナルド・ニアマイア(Renaldo Nehemiah)氏は、ガトリンは自身の過去が何度も取り上げられていることにショックを受けていると語っている。

「彼は怒っていない。そのことに困惑している。持ち上げて引きずり下ろす。それが人間というものか」

「ドーピング違反で処分を受けた場合、普通は選手生活が終わる。彼は復帰することができた。彼は自らの素晴らしい才能を証明した。4年間の出場停止でキャリアは損なわれて当然だが、アスリートとして彼には全く影響しなかった」

 23日の決勝までの2年間で28戦無敗の成績を収めていたガトリンは、25日から予選が始まる200メートルでの雪辱を誓った。

 過去にドーピング違反で処分を受けた4選手が出場した100メートル決勝後にガトリンは、肩をすくめながら、「休むだけだよ。200メートルに向けて準備するだけさ。落ち着きを取り戻して、仕事の準備をするだけさ」と語っている。(c)AFP/Alastair HIMMER