【7月31日 AFP】2011年の東日本大震災に伴う福島第1原子力発電所事故によって健康面への影響が尾を引くと予想されるのは、身体的打撃よりも精神的打撃だとする研究論文3件が31日、英医学専門誌ランセット(Lancet)に発表された。

 3本の研究論文はさらに、精神衛生上の悪影響について、地震の混乱による精神的外傷(トラウマ)や有害な放射能に対する不安感だけでなく、自治体および保健衛生当局の危機管理上の欠陥にも起因していると述べている。

 福島第1原発のメルトダウン(炉心溶融)は、原子力の出現以降、国際的な事故評価尺度(INES)で「レベル5」以上に至った5大事故の一つとなった。この事故で同原発から半径30キロ以内の17万人が避難。2014年の調査時点では、避難した2万世帯以上のうち半数の家族が3年以上にわたって離散状態となったままだった。

 国連科学委員会(UNSCEAR)による2013年の報告書では、1986年のチェルノブイリ(Chernobyl)原発事故で被災地域の子どもたちの間で甲状腺がんが増加したのとは対照的に、福島原発の事故では放射線暴露に起因するがん罹患率の上昇は起きない可能性が示された。

 しかし、世界の主要原発事故の健康への影響を調査する専門家15人を率いる福島県立医科大学(Fukushima Medical University)の谷川攻一(Koichi Tanigawa)氏は、たとえ目に見える身体的健康被害が予期されないとしても、危険認識の相違に主に由来する精神的・社会的問題が人々の生活に破壊的な影響を及ぼしていると指摘している。

 精神的ストレスを体験している成人の割合は、避難者では一般の5倍のままで、特に打撃を受けやすい高齢者の死亡例は事故後3か月の間に3倍に増えていた。また先の14年の調査では、回答者の68%が家族内に精神的あるいは身体的健康問題がある人間がいると答え、57%が睡眠障害、そして47%が抑うつ状態を報告している。

 これらの研究論文ではまた、危機管理上の欠陥が新たなストレス源になっていると指摘された。事故の重大性に関する発表の一貫性のなさと情報の制限が、社会的な不安をさらに増大させ、不正確な情報伝達や社会の不信を招いた可能性があると研究論文の一つは結論付けている。

 論文執筆者らは、特定の状況がいかにさらなる精神的プレッシャーを生み出すかを、保健衛生当局が予測できなかったとしている。また放射能の脅威を人々がどう受け止めるかに関する理解が乏しかったために、情報を発信する上での誤りがもたらされたとしている。(c)AFP