【8月1日 AFP】渋滞の激しいメキシコ市(Mexico City)の路上で、プロレスマスクを着けた男が闘っている。このヒーロー「ペアトニート(Peatonito)」(小さな歩行者の意)は、歩道をふさいでいる車を押し出し、スプレーで横断歩道を描き、歩道に駐車している車の上に駆け上がる。

 マスクと、おばあちゃんが縫ってくれたというマントは、横断歩道をイメージした白と黒のストライプ。「俺たちが住んでいるのは、車独裁社会だ。最近まで歩行者の権利のために闘おうっていう者はいなかった」。同じ道では5人のピエロが同様の任務を遂行している。

 ペアトニートとピエロたちは「閉所恐怖症」という名前の市民グループの仲間たちだ。他の活動家たちとともに、人口2100万人、車両台数400万台、地下鉄乗客数1日500万人のメキシコ市で人々の無作法な行為や都市計画の悪さと闘っている。同市では身分証明書と704ペソ(約5400円)があれば、誰でもすぐに運転免許証を手にできる。一方、保健省の統計によれば、メキシコ市の交通事故による年間死者数約1000人のうち、半数以上が歩行者だ。

 2013年、メキシコ全国の30のグループが「歩行者同盟(Pedestrian League)」を結成した。彼らは「メキシコの歩行者の権利憲章」を発行し、車に有利な政策に反対するロビー活動を展開している。中には、歩道や障害者用の駐車スペースに止まっている車の写真を撮影し、ソーシャルメディアに投稿するグループや、ペンキの入ったバケツを持って歩き横断歩道を描くグループもいる。ペアトニートたちのグループ「閉所恐怖症」の武器はユーモアだ。

 ペアトニートの正体は、都市政策に関する非政府組織(NGO)で働くホルヘ・カニェス(Jorge Canez)さん。週2回、白黒のストライプに緑色の歩行者マークがついたマスクをかぶって路上に出る。カニェスさんはペアトニート用の名刺も持っている。フェイスブック(Facebook)やツイッター(Twitter)を通じて誰でも、自分の近所の道路の改善を依頼することができる。

 プロレスラーに扮(ふん)することは2年前にメキシコのプロレス、「ルチャリブレ」を見て思いついた。メキシコでプロレスラーは国民的ヒーローだ。「皆に歩行者革命を支える力になってもらうためには、クリエーティブな方法で楽しませなくちゃならない」

 有名になったおかげで外国の都市計画イベントへの招待も届いている。「誰も車にひかれなくなるまで続けるよ」。そう言ってマスクとマントをとると、ペアトニートはきびすを返し、仕事に向かう普通の人たちの中に消えて行った。(c)AFP/Laurent THOMET