【7月17日 AFP】昨年8月に米ミズーリ(Missouri)州ファーガソン(Ferguson)で白人警官に射殺された黒人青年、マイケル・ブラウン(Michael Brown)さん(当時18)。遺体の等身大の複製を展示している米シカゴ(Chicago)のギャラリーに対し、ブラウンさんの父親が即時撤去を求めている。

 ギャラリーのオーナーは、芸術を通して米国の人種差別と闘う展示だと主張しているが、ブラウンさんの父親は、白人の特権と人種差別に関する展示の一部としてこの作品を制作した白人アーティストは行きすぎだという批判の先鋒に立っている。

 警察の立ち入り禁止テープに囲まれ、うつぶせになった当時18歳の息子の姿を再現した作品について、ブラウンさんの父親は米CBSニュース(CBS News)に対し、「心底、撤去してもらいたい。本当に苦痛だし、胸が悪くなる。あの光景は今も頭から離れない」と述べた。

 展覧会はブラウンさん他、武器を持たない黒人男性が、警察の手によって死亡する事件が昨年、相次いだことを受け、米国が人種間の緊張に立ち向かう中で行われている。「アートを通して、米国内の人種差別と対決する」ことを目標に掲げ、来館者に「会話に参加し、修復を始めよう」と呼び掛けている。

 この作品を制作したティロック・ムーア(Ti-Rock Moore)さんは展示説明文の中で「活動家としての自分の情熱に根差し、この国の社会のあらゆる領域に今もまん延している圧倒的な人種差別をテーマとした。自分が白い肌を持つことで労せず得ている特権を、鋭く自覚することによって、白人の特権性について検証する」と述べている。

 会場には黒い顔をした「自由の女神」像や、「白人特権」と書かれた十字型のネオン、南北戦争時の南部連合旗にくるまれたフードをかぶった白人の人形など、強い表現作品が多く展示されている。しかし、スペースの大半を占めているのは、ブラウンさんの殺害現場を模した展示だ。同ギャラリーには殺害脅迫や嫌がらせ、抗議のメールを受け取っていると報じられている。

 ブラウンさんの母親は遠くファーガソンから展覧会のオープニングに出席したが、その時には遺体の複製には覆いがかけられていた。ギャラリー側は、展示前にブラウンさんの父親にも連絡を取ったと語っている。

 ギャラリーのオーナー、アンドレ・ギシャール(Andre Guichard)氏は、ムーアさん初の個展を依頼した理由について、彼女の活動と「異なる文化が体験する人種差別を表現する方法」を評価しているからだと述べた。アーティストのルーサー・クッシュ(Luther Kush)氏は「良いと思う。なされるべきことだ。アートは人々を目覚めさせる」と述べた。

 一方、アフリカ系米国人の文化に関するオンライン誌「ザ・ルーツ(The Root)」のコラムニスト、キルスティン・ウェスト・サバリ(Kirsten West Savali)さんは、同作品を悪趣味と感じる一人だ。「ブラウンさんのさげすまされた遺体の記憶は、この国が、自分たちを愛したことなどいまだかつてないのだと実感しているすべての黒人たちの家庭、地域、心に刻み込まれている。そのことを理解するために、我々の死体に自分の署名を入れる『勇敢な』白人アーティストなど、私たちには不要だ」と語った。(c)AFP/Mira OBERMAN