■貧困から生じる病

 壊疽性口内炎は、食糧不足の地域で主要なビタミンが欠乏し発症することが多い。水の細菌汚染など衛生問題も関係している。また自然免疫力が極端に落ちた状態でも発症しやすい。

 ニジェールでは食糧危機が頻繁に起こる。保健、教育、所得に関する国連開発計画(UNDP)の指標、人間開発指数(HDI)では最下位だ。また国連によると、1人の女性が生涯に産む子供の数では、ニジェールが7.6人で世界のトップ。だが、14年6月の時点で、5歳未満の子どもの15%超が飢餓状態にあり、毎年、4000~6000人の幼児が栄養失調で亡くなっている。

 世界保健機関(WHO)によれば、壊疽性口内炎はアフリカ諸国の大半の他、アジアのラオス、一部の南米諸国でもみられるが、世界全体で1年間に発症する14万~18万人のうち大半を占めるのはニジェール人だ。

 WHOの専門家、ブノア・バレンヌ(Benoit Varenne)氏によると、欧州では第2次世界大戦末期、連合軍がその劣悪な環境を直接目にしたナチス・ドイツ(Nazis)の強制収容所での症例の記録が最後だ。「そう考えれば、どのような類の感染症を相手にしているのか、イメージがつかめるだろう」とバレンヌ氏はいう。

 ニジェールの疾患対策に関わるイブラヒム・ハマドゥ(Ibrahim Hamadou)氏は、同国の壊疽性口内炎に関する信頼できる統計はないとしながら「90%の子どもが基本的な手当てを受ける前に亡くなっている」と説明した。