【6月27日 AFP】フランス東部サンカンタン・ファラビエ(Saint-Quentin Fallavier)にある米ガス化学製品メーカー、エアプロダクツ(Air Products)の工場が26日に襲撃された事件で、自分の上司の頭部を切断して工場入り口に掲げ、複数の爆発物を爆破させたとされるヤシン・サルヒ(Yassin Salhi)容疑者は仕事も家族もあり、犯罪歴はない物静かな男だった。

 サルヒ容疑者は35歳、既婚で3児の父親。当局に捜査対象となったことはあったが、テロ活動への参加や犯罪行為はこれまで確認されたことがなかった。

 サルヒ容疑者はスイス国境に近い仏東部ポンタルリエ(Pontarlier)で、アルジェリア出身の父とモロッコ系の母の間に生まれた。まだ10代のときに父親が亡くなると、母親は家を売り、家族から去って行った。サルヒ容疑者が子ども時代に通っていたモスクの指導者、ナセル・ベナヤ(Nacer Benyahia)師は「彼は孤独だった。獲物を探す過激派から見れば、格好の標的だっただろう」と語る。しかし、幼少時は穏やかで神経の張りつめたところはなかったという。

 サルヒ容疑者が情報当局の注意を最初に引いたのは2005年から06年にかけてで、イスラム原理主義を掲げるサラフィー主義者(Salafist)の運動とつながる人物たちと交流していたためだった。その後、数年間は情報機関の捜査対象となったが、08年の段階で捜査手続きは更新されなかった。

 サルヒ容疑者は最近では妻と3人の子どもと共に仏東部ブザンソン(Besancon)に住んでいた。情報当局の捜査網に再び浮上したのは2013年。イスラム過激派とのつながりが疑われる人物たちと交流していたためだったが、ひげを生やし、北アフリカの伝統衣装「ジャラバ」を着るようになっていた容疑者が特に危険性をうかがわせる兆候はなかった。

 14年末になると、サルヒ容疑者は一家でフランス第二の都市リヨン(Lyon)の静かな郊外にある街、サン・プリースト(Saint-Priest)の低所得者用の集合住宅へ引っ越し、今年に入り配送業務の運転手として働き始めた。

 26日の事件で、ガス工場の入り口に掲げられていた人間の頭部はサルヒ容疑者の上司のものだった。被害者の遺体にはアラビア語が走り書きされていた。またアラビア語の書かれた旗が現場で見つかっている。

 工場を所有する米エアプロダクツのセイフィ・ガセミ(Seifi Ghasemi)会長兼社長は、自社の従業員は全員無事だったと述べている。

 サルヒ容疑者の職場の同僚だというある人物はRTLラジオに対し、同容疑者には静かな強さがあり、一見穏やかに装っているような謎めいた人物だと語った。また「彼は羊の皮をかぶった狼だった。ダーイシュ(Daesh、イスラム過激派組織「イスラム国、IS」のアラビア語名の略称)について話しかけてきたことがある。洗脳するとかではなく、ただ僕の意見を聞いてきたので、自分の考えていることを話した。すると次の日からはずっと、朝と帰りのあいさつしかしなくなった」と語った。(c)AFP